山下万喜(やました・かずき)|第27期・海上自衛隊

山下万喜は昭和35年8月2日生まれ、熊本県出身の海上自衛官。

防衛大学校第27期の卒業(電気工学)で34幹候。

平成28年12月(2016年12月) 自衛艦隊司令官・海将。

前職は佐世保地方総監であった。

さて、こういう完璧なスーパーエリートが最も難しいという将官である。

山下万喜のことだ。

どこからどう考えても、第33代海上幕僚長である村川豊(第25期)の後任として、第34代海上幕僚長に着任しないとは思えない最高幹部であり、海上に在るすべての実力組織を指揮する最高指揮官だ。

戦前の海軍と海上自衛隊では、組織構成も将官の職掌も異なり、また戦時中か平時かといういろいろな違いはあるが、それでも自衛艦隊司令官は、戦前で言えば連合艦隊司令長官にしか匹敵するポストがないほどに、一身に我が国の海上自衛隊に於ける実力組織を全て担う。

ただ、実力組織のほとんどを指揮する組織といえば、航空自衛隊には航空総隊司令官があり、陸上自衛隊には2018年3月に陸上総隊が新設され、同様の組織が生まれるが、それでもこのポストが頂点のイスに座る確実なポストとはならない。

なぜか。

軍事組織には、頂点の椅子を補佐する副長のポストもあり、また教育や訓練といった、戦い方そのものをプランニングし、その組織に対する大きな影響力を行使し得るポストが他にもあるからだ。

とはいえ、これは戦前からの伝統ではあるが、やはり実力組織のトップがもっとも「格上」であるという風潮は確実に存在する。

そのような前提をご理解頂いた上で、海上自衛隊のトップである海上幕僚長に昇るものが最後に着任するポストにはどのようなものがあるのか。

一部の例外はあるものの、それはほぼ、以下のポストからのジャンプアップであると言い切っていいだろう。

・自衛艦隊司令官

・佐世保地方総監

・横須賀地方総監

・海上幕僚副長

・航空集団司令官

我が国が主権を回復し、自衛隊が発足して以降に誕生した海上幕僚長は33人を数えるが、2017年10月現在では、これ以外のポストから直接海上幕僚長に昇るものが現れるのは、まず想定できない。

過去の慣例ということもあるが、2017年現在の安全保障環境を考えて、これ以外のポストが、海上幕僚長に次ぐ重責を担い、組織全体を俯瞰的に見渡していると判断されることはまずありえないからである。

その中でも、実力集団のトップであり、次期幕僚長筆頭ポストである自衛艦隊司令官にある山下だが、さらに困ったことに、前職は佐世保地方総監である。

いわば、海上幕僚長にいつでもジャンプアップできるポストに2つも連続で就いているわけだ。

陸上自衛隊で言えば、西部方面総監や中部方面総監の次に北部方面総監に就いているようなものであり(2017年10月現在の状況)、こんな陸将がいれば誰だって次は陸上幕僚長に就任するに決まっていると思われるだろう。

しかし、軍事組織はそう簡単には行かない。

いや、軍事組織というよりも、巨大組織の人間関係と言ったほうがいいかもしれない。

何の話かと言えば、過去に山下のような、佐世保地方総監から自衛艦隊司令官に昇ったスーパーエリートの最高幹部が居たという話だ。

その最高幹部とは、テレビやマスコミなどでお馴染みの「元海将」と紹介されることが多い、香田洋二(防大16期)である。

山下と同様に、佐世保地方総監から自衛艦隊司令官に昇り、次期海上幕僚長は確実と言われていた男であるが、客観的に考えても、確かにその有資格者であっただろう。

しかし、なれなかった。

表向きの理由は、香田が自衛艦隊司令官在任中に発生した2007年のしらねCIC火災事故、2008年のあたご漁船衝突事故などの責任を取り、更迭に近い形で退役になったものとされている。

しかしながら、本当のところは当時、事務方の実力者であり、在任中の収賄事件で退職後に逮捕・有罪となった元防衛事務次官のMと香田が防衛政策上で激しく対立した事によるものと言われている。

防衛省の天皇とまで言われたMは、防衛省内で当時相当な影響力を持っていたと言われていたが、将官人事はもちろん、幕僚長人事にも強い影響力を行使できたとされている。

なぜそのようなことになったのかと言えば、おそらくそれは政治の弱体化であろう。

なお、香田が退役した時の総理大臣は福田康夫だ。

ご存知のように、自民党が参院で第一党の座を失い、民主党幹事長である小沢一郎にいじめ抜かれていた時の総理大臣である。

そして福田は間もなくして辞任。

後を継いだ麻生太郎を最後に自民党は選挙で大敗し下野、狂気の民主党政権が始まることになる時代であった。

そんな時に王道を歩んでしまった香田は本当に気の毒であった。

当時と今とでは政治状況があまりにも違うので一概には比較できないが、とはいえ山下と同じような、海上幕僚長確実と見做されていたキャリアを歩んだものですら、頂点に届かず退役したという事例が在るということである。

このような例えは極端かもしれないが、村川の後任として次期海上幕僚長は確実と思われている山下にも、何があるかわからない。

気を緩めずに、なお一層職務に励んでもらえることを期待したい。

なお余談だが、香田が更迭される一員となってしまったあたごCIC火災事故である。

あたごはその後、山下が着任した第1護衛隊群司令時代にその指揮下に入り、平成22年にはリムパック2010で、山下自らが指揮を執って乗艦し、演習に参加している。

これもまた何かの縁であろうか。

香田と山下は、おなじ旗艦に乗り、同じように指揮を執った経験を持っていることになる。

本記事は当初2017年7月4日に公開していたが、加筆修正が重なったので2017年10月20日に整理し、改めて公開した。

なお、ここから下の部分は2017年7月に公開した当時のものをそのまま残している。

山下に関しては、インターネット上の動画配信サービス「10MTV」に参加し、栗田健男の「謎の反転」の理由(意思決定過程)を解説しているのが興味深い。

民間企業が行っている有料の動画配信サービスになぜ山下が講師として参加しているのか経緯は謎だが、顔出しの動画であり本人であることは間違いないだろう。

小泉元総理大臣や岡崎久彦、葛西敬之など政財界の超大物が講師陣として名を連ねている動画サービスであり、興味があれば検索して欲しい。

この動画の中で山下は、栗田がレイテ湾に突入せずに引き返した「謎の反転」について、このまま突入し無駄死にするよりも、北上して敵を発見・殲滅することで危機的な戦況を好転しうる最後のチャンスであると考えたためとしている。

しかしこの際の栗田に与えられた任務は輸送船団の殲滅であり、現場指揮官の行動として「与えられた任務を理解していなかった」ために引き起こされた事態であるとまとめている。

なお任務を理解していなかった原因について、上官によるレクチャー不足であるのか、栗田の理解力不足であるかについては言及していない。

内容的には、小池百合子・東京都知事が愛読書として公表したことでにわかに注目された「失敗の本質-日本軍の組織論的研究-」の書中において、30年以上前に分析されている内容とそれほど大きな違いはなく、新鮮味はない内容だ。

おそらくこれは山下独自の研究発表というよりも、海上自衛隊幹部学校長を経験していることから、海自の幹部学校で教えている海自の共通認識を、一般人に向けて平易に解説したものだと思われる。

また、自衛艦隊司令官就任後の山下の動静を伝えるニュースとしては、2017年6月に初めて開催された日米水陸両用将官級会議への出席が興味深い。

この会議は、日本にも海兵隊に匹敵する水陸両用部隊を、陸自西部方面隊を中心とした組織で新設する計画であることから、日米両部隊の連携をどのように進めていくのかを話し合うものだ。

日本側からはこの会議に、河野統合幕僚長、小川清史・西部方面総監、前原弘昭・航空総隊司令官、それに自衛艦隊司令官である山下が集結するなど、かなり豪華な顔ぶれで行われた。

日本初となる「海兵隊」創設には海上自衛隊の掃海艇部隊が深く関与することが決まっており、呉の掃海隊群には事実上の強襲揚陸艦として第1輸送隊のおおすみ以下、エアクッション艇とヘリを運用できる部隊が編入されるなど、周辺準備は万端である。

離島防衛は我が国安全保障の喫緊の課題であり、陸海空自衛隊がその意志を最も強く示す必要がある分野でもある。

今後、日本版海兵隊の創設にも、山下が深く関わっていくことになりそうだ。

◆山下万喜(海上自衛隊) 主要経歴

昭和
58年3月 防衛大学校卒業(第27期・電気工学)

平成
6年1月 3等海佐
9年7月 2等海佐
10年 3月 護衛艦「せとぎり」砲雷長兼副長
11年3月 護衛艦まつゆき艦長
12年3月 海上幕僚監部運用課
14年1月 1等海佐
15年8月 海上幕僚監部防衛課業務計画班長
16年3月 海上幕僚監部防衛課防衛班長
17年8月 第3護衛隊司令
18年7月 海上幕僚監部装備体系課長
19年9月 海上幕僚監部補任課長
20年8月 海将補
20年12月 第1護衛隊群司令
22年8月 潜水艦隊司令部幕僚長
23年8月 防衛大学校訓練部長
24年7月 海上幕僚監部防衛部長
26年8月 海上自衛隊幹部学校長 海将
27年8月 佐世保地方総監
28年12月 自衛艦隊司令官

【注記】

このページに使用している画像の一部及び主要経歴は、防衛省のルールに従い、防衛省のHPから引用。

主要経歴については、将補以上の階級のものにあっては防衛年鑑あるいは自衛隊年鑑も参照。

自衛官各位の敬称略。

※画像はそれぞれ、軽量化やサイズ調整などを目的に加工して用いているものがある。

【引用元】

防衛省海上自衛隊 鹿屋航空基地公式Webサイト(訓示写真)

http://www.mod.go.jp/msdf/kanoya/toukatu/7kaizoku-.html

防衛省海上自衛隊 幹部学校公式Webサイト(顔写真)

http://www.mod.go.jp/msdf/navcol/seminars/26wpns_step/wpns_step04.html

防衛省海上自衛隊 自衛艦隊公式Webサイト(顔写真)

http://www.mod.go.jp/msdf/sf/about/cinc.html

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