空将・空将補人事|2021年12月・航空自衛隊

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2021年12月、航空自衛隊の空将・空将補の人事異動が防衛省から発令された。

 

読者の皆様はあるいはご存知だと思うが、今回の冬の人事は、本来であれば例年夏の人事で発令がなされる「1選抜人事」である。

自衛官の定年延長の影響で、おそらく時間をかけながら人事を1年後ろ倒しにしていくのだと思われるが、その過渡期として、夏に発令していた1選抜人事を今冬に発令した形だ。

そして今回の空将人事で、1選抜で空将に昇ったのは、谷嶋正仁(第34期)と小笠原卓人(第34期)の2名である。

それぞれ、戦闘機パイロットと高射の出身であり、谷嶋はそのまま、南西航空方面隊司令官に着任し、小笠原は中部航空方面隊司令官として、我が国の防衛の最前線を任されることになった。

 

現在、台湾周辺を含む南西方面の有事の可能性は非常に高く、その意味でも谷嶋にかけられる国民の期待は大きい。

もちろん、近畿から南東北までの広大な空域を任される小笠原についても、言わずもがなである。

お二人の最高幹部には、1選抜の空将として大いに活躍されることに心から注目し、そしてますます応援をしていきたいと思う。

 

その上で今回の人事では、情報本部長に着任した尾崎義典(第32期)の異動に注目してみたい。

空自のファンであればある意味で”常識”だと思うが、尾崎は「ミスター・ファントム」と呼ばれるほどに、F-4戦闘機とともに人生を歩み、F-4戦闘機とともに自衛官人生を駆け抜けてきた男である。

幼い頃、我が国がF-4戦闘機を導入する際に臨時飛行隊長として活躍されたご尊父、故・尾崎義弘2等空佐の事故と、その後の数奇なお話についてはここでお伝えするまでもないだろう。

もしまだご存知でない方がいれば、ぜひ、上記リンクからご一読をして欲しい。

 

今回はその話を割愛し、この情報本部長というポストについてだ。

自衛隊や自衛官にあまり詳しくない人にはピンとこないポストだと思うが、情報本部長とは「ポストの格」でいうと、陸上総隊司令官、自衛艦隊司令官、航空総隊司令官と同格である。

言うまでもなく軍事作戦の遂行には、陸海空の3軍に加え、最近は宇宙軍という概念も加わりつつあるが、それにプラスして「インテリジェンス(情報)」の運用が不可欠である。

つまり、陸・海・空・情の4部門の有機的な統合によって初めて有効な作戦の運用が可能になるわけだが、情報本部長とはこの情報部門のトップということだ。

日本最大のインテリジェンス部門であり、その構成員は制服組だけでなく背広組も含めて、ざっと2000~3000名であったと思うが、詳細は公表されていない。

北朝鮮のミサイル発射というような短期的な軍事情報はもちろん、国家としての企図を探るような長期的な情報収集任務も行っており、文字通り日本最大の情報・諜報機関であると言ってよいだろう。

 

このような性質もあり、このポストは陸海空で持ち回りに近い運用がなされている。

統合幕僚監部の主要ポストと同様に、陸海空のいずれかで独占をすると、やはりハブられた組織はおもしろくない上に、運用上も情報の偏りが出てしまうためだ。

人事とは、どうしても「どこかの組織をいじけさせてはいけない」運用をしなくてはならないのである。

そして今回は、

宮川正(第26期)・航空自衛隊

大塚海夫(第27期)・海上自衛隊

納冨中(第29期)・陸上自衛隊

の跡を継いで、空自の尾崎が着任した形である。

(ちなみにここだけの話、管理人は大塚海夫サンと同じ誕生日である^^v)

 

ところで、上記の3人に加え尾崎となると、カンの言い方だと「・・・あれ?」と思われる事があるのではないだろうか。

宮川以前のことは正直良くわからないのだが、宮川以降については、全員が米国に太いパイプを持っている自衛官であるということだ。

このうち、宮川、納冨、尾崎の3名は米国防衛駐在官の経験者である。

大塚は、幹部留学先として米国の大学に学んでいる。

さらに納冨は、ハーバード大学ケネディー行政大学院修士課程や米国陸軍戦略大学に学ぶなど、もう自衛隊きっての米国通だ。

さらに尾崎については、若き2等空佐の頃、イラク戦争後の中東政策を指揮する米中央軍司令部に派遣され連絡官を務めている。

この連絡官というポジションは要するに、米国の意思を探り、イラク占領政策をどのように進めるのかを本国に報告する役割を担うポジションである。

なおかつ、尾崎が米中央軍にあった平成14年から平成16年と言えば、日本がイラク復興業務に実際に部隊を出し、政治的に大モメにモメていた時期である。

「ヒゲの隊長」といえば思い出す人もいるかも知れないが、あの頃合いだ。

つまり、たった一人の犠牲者でも出てしまえば、時の政権も自衛隊も大ピンチに陥るであろう、非常な緊張を強いられていた情勢のときである。

尾崎はその中で、米中央軍にあって情報収集にあたり本国に情報を上げ、国家と自衛隊の意思決定に多大な力を発揮した幹部なのである。

 

「尾崎と言えばF-4戦闘機」という印象をお持ちの人も多いかもしれないが、実はこれ以外にも、尾崎には「情報屋」としてのキャリアがとても豊富だ。

今回、情報本部長に着任することになったのは当然の人事であり、なおかつ南西方面の緊張感が高まっている今の情勢にあって、本当に頼もしい男が適任のポジションに就いたといえるのではないだろうか。

決して目立たず、そして多くの国民には全く認知されていないが、実は凄いポストである情報本部長というポジションについて、今回は詳しく説明させて頂いた。

ぜひ、自衛隊を愛する多くの国民に、そんな職務で人知れず汗を流す多くの人達の存在を知ってもらい、そして応援して欲しいと願っている。

 

なお例によって、アイキャッチ画像の美しい女性は人事異動とは何の関係もない。

航空自衛隊那覇基地名物の「那覇基地キラリ☆空女」シリーズで、file.19として登場してくれた航空機整備員(APG)の女性隊員である。

小さい頃から飛行機が大好きで、空自に入隊後も航空機整備を志望したそうだ。

「生まれ育った沖縄の空を守る仕事につけて幸せです」と語り、毎日熱心に仕事に取り組んでくれている。

 

日本中の若い男性諸君!!

航空自衛隊には、こんなに強く美しい女性隊員がたくさんいるぞ!(多分)

人気の国家公務員で仕事も休みもしっかりと取り組め、しかもふと横をみれば、こんなにチャーミングな同僚がいるのである。

もはや自衛隊に入隊しない理由などないであろう!

さあ、最寄りの地本に願書を取りに行き、幹部でも曹士でもいいから今すぐ志願するんだ!

(`・ω・´)シ

 

その他、詳細な人事異動の内容は以下の通り。

※文中、自衛官および関係者各位の敬称略。

(画像提供:航空自衛隊公式ツイッター

空将に昇任させる
(航空幕僚監部総務部長)
空将補 影浦誠樹

(航空幕僚監部人事教育部長)
空将補 小笠原卓人

(航空幕僚監部防衛部長)
空将補 谷嶋正仁

 

航空総隊副司令官を命ずる
(中部航空方面隊司令官)
空将 森田雄博

 

中部航空方面隊司令官を命ずる
(航空幕僚監部人事教育部長)
空将 小笠原卓人

 

南西航空方面隊司令官を命ずる
(航空幕僚監部防衛部長)
空将 谷嶋正仁

 

航空支援集団司令官を命ずる
(航空開発実験集団司令官)
空将 森川龍介

 

航空開発実験集団司令官を命ずる
(幹部学校長兼目黒基地司令)
空将 柿原国治

 

航空自衛隊幹部学校長を命ずる兼ねて目黒基地司令を命ずる
(航空幕僚監部総務部長)
空将 影浦誠樹

 

情報本部長を命ずる
(南西航空方面隊司令官)
空将 尾崎義典

 

退職を承認する
(航空支援集団司令官)
空将 金古真一

(航空総隊副司令官)
空将 上ノ谷寛

令和3年12月22日付
https://www.mod.go.jp/j/press/jinji/2021/1222a.pdf

 

 

空将補に昇任させる
(統合幕僚監部運用部運用第1課長)
1等空佐 柳享範

(航空幕僚監部防衛部事業計画第1課長)
1等空佐 岡本秀史

(航空幕僚監部総務部会計課長)
1等空佐 中島隆幸

(航空幕僚監部人事教育部人事教育計画課長)
1等空佐 石引大吾

 

統合幕僚監部首席後方補給官を命ずる
(航空幕僚監部総務部会計課長)
空将補 中島隆幸

 

航空幕僚監部総務部長を命ずる
(情報本部情報官)
空将補 船倉慶太

 

航空幕僚監部人事教育部長を命ずる
(第3補給処長)
空将補 倉本昌弘

 

航空幕僚監部防衛部長を命ずる
(幹部学校副校長)
空将補 坂梨弘明

 

航空総隊司令部防衛部長を命ずる
(航空戦術教導団司令)
空将補 寺﨑隆行

 

北部航空方面隊副司令官を命ずる
(航空安全管理隊司令兼立川分屯基地司令)
空将補 福田隆宏

 

第2航空団司令を命ずる兼ねて千歳基地司令を命ずる
(統合幕僚監部運用部運用第1課長)
空将補 柳享範

 

第6航空団司令を命ずる兼ねて小松基地司令を命ずる
(航空幕僚監部人事教育部人事教育計画課長)
空将補 石引大吾

 

西部航空方面隊副司令官を命ずる
(北部航空方面隊副司令官)
空将補 高橋秀雄

 

南西航空方面隊副司令官を命ずる
(第2航空団司令兼千歳基地司令)
空将補 徳重広為智

 

航空戦術教導団司令を命ずる
(第6航空団司令兼小松基地司令)
空将補 加治屋秀昭

 

航空安全管理隊司令を命ずる兼ねて立川分屯基地司令を命ずる
(航空幕僚監部防衛部事業計画第1課長)
空将補 岡本秀史

 

航空自衛隊幹部学校副校長を命ずる
(西部航空方面隊副司令官)
空将補 秋山圭太郎

 

航空自衛隊補給本部副本部長を命ずる
(防衛監察本部監察官)
空将補 上境賢己

 

航空自衛隊第3補給処長を命ずる
(南西航空方面隊副司令官)
空将補 加藤康博

 

防衛監察本部監察官を命ずる
(航空総隊司令部防衛部長)
空将補 鮫島建一

 

退職を承認する
(補給本部副本部長)
空将補 佐藤幸喜

令和3年12月22日付
https://www.mod.go.jp/j/press/jinji/2021/1222b.pdf

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4件のコメント

待ちに待っていた、12月昇進の陸海空情報、興味深く拝見いたしました。
ありがとうございます。今後も、頑張って、楽しい情報をお見せください。

お待たせして申し訳ございませんでした
m(_ _)m
続いて、佐官の異動も更新してまいります!

多田望さま、ありがとうございました!
こちら修正させて頂きました
m(_ _)m

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