【コラム】「市民団体」が陸上自衛隊の沖縄新基地に反対する本当の理由とは

Pocket

「陸上自衛隊が来れば、宮古島の若い女性たちが性暴力被害に遭うのではないか」

2017年3月、共産党系とされる宮古島市議会議員の石嶺香織氏による要旨このような発言は、全国紙でも取り上げられ、ややセンセーショナルな話題になったので記憶に新しい人も多いはずだ。

 

その発言の適否はともかくとして、まずは2017年9月現在の状況をおさらいしたい。

 

防衛省は現在、沖縄県の宮古島と石垣島に陸上自衛隊の新基地建設を決定し、宮古島ではすでに候補地が決定され、造成工事に着手している。

石垣島はその建設予定地が最終的に絞り込まれ、石垣市長と市議会による原則的な同意方針のもとで順調に配備方針が進んでいるものの、一部の市民団体による苛烈な反対運動が行われている真っ最中というのが、2017年9月の状況だ。

 

軍事基地に限らず、大規模な造成工事を伴う新たな建造物が新設される際には、一般に反対運動が起きるものであり、その事自体を否定するものではない。

市民運動を戦う人たちの中には、純粋に平和のためと信じ、人生を掛けて運動をしている人も少なくはないであろう。

その志はまことに尊いものであって、そのような運動を自由に行える日本という国に生まれたことは大きな喜びだ。

 

一方で、沖縄の市民団体の中には一部、日本国外から活動家が参加し、市民団体の一員であることを名乗り過激な運動を行っている者が存在することは、既に周知の事実だ。

沖縄タイムスや琉球新報と言ったこれら市民団体の活動に理解を示す地元紙でも、中国や韓国からこの運動に参加している者たちがいる事実を直接あるいは間接に報じているものであり、少なくとも国外の活動家が沖縄に所在し、反基地運動を展開していることは疑いようがないだろう。

 

100歩譲って、これが在沖縄米軍に対する反基地・反米軍運動であれば、誹謗中傷ギリギリの激しい感情をぶつけ、反対運動をするものがいてもまだわからなくはない。

戦争の記憶を持っている高齢者はまだご存命であり、その記憶を聞き、直接語り継ぐことができる子や孫世代が沖縄には多くいるからだ。

 

しかしながら、同じ日本人であり、なおかつ性犯罪発生比率が高いとは言えない自衛隊員に対し、

「自衛隊員がくれば性犯罪が多発する」

という極めて根拠が薄弱で、論理的とは言えない言葉の暴力をぶつけてでも、自衛隊の沖縄配備と新基地建設に反対する者たちが存在するのは一体なぜなのだろうか。

 

このコラムでは、このような考え方の裏にあるもの、そして一部の市民団体が目的としている反自衛隊運動の本当の目的を明らかにしていきたいと考えている。

 

その一方で、このコラムで触れる内容は石嶺香織・宮古島市議など特定の個人を誹謗中傷するものではなく、その思想を否定するものでもない。

市議会議員がそのように考え、なおかつ当選しているということは、その考えを支持する一定数の有権者が存在するということに他ならないからであり、有権者に存在するであろう一部の声だからだ。

従って、特定個人への攻撃が目的というよりも、本来の目的を明らかにしないままにこのような運動を行っている、極めて一部の「我が国にとって好ましくない」思想を持つ人達の意図を明らかにするものであると理解して貰えれば幸いだ。

 

その上でだが、ページ冒頭の画像は尖閣諸島を中心とした同心円であり、概ね50km~200kmまでの目安を海上に記している。

石垣市の公式情報では、石垣市中心部から尖閣諸島までの直線距離は155kmと発表されており、この画像と概ね一致するだろう。

 

この図によると、我が国で近々発生する可能性が極めて高い武力紛争の地となりうる尖閣諸島は、石垣島からおよそ150km程度、宮古島からは200km程度という事実を読み取ることができる。

まずはこの数字を覚えてほしい。

 

 

次に、石垣島と宮古島に陸上自衛隊の新基地が建設された際に、配備が予定されている部隊について解説したい。

それは「野戦特科」と呼ばれる部隊であって、地上から海上の敵性艦船に対しミサイル攻撃を行う部隊だ。

 

地対艦ミサイル連隊と呼ばれており、我が国には現在、5つの連隊が所在する。

2017年9月現在だが、北海道に3連隊、青森県八戸駐屯地に1連隊、熊本県の健軍駐屯地に1連隊があり、我が国に接近し、領土と領海を侵そうとするものに対し睨みをきかせる。

このうち八戸に所在する第4地対艦ミサイル連隊は、2018年度中に沖縄県の那覇基地に編成替えが予定されている。

 

なお、上記画像は北海道に所在する第1地対艦ミサイル連隊で指揮を執る若き士官・笹川3尉だ。

そして、石嶺宮古島市議が心配するようなレイプ事件は、日本に所在する地対艦ミサイル連隊の半分が所在する北海道ですら決して高いということはなく、ミサイル連隊が所在する駐屯地周辺での性犯罪比率が高いという事実も存在しない事実がある。

 

次に、これら地対艦ミサイル連隊の仕事についてだが、この部隊の仕事は、我が国の領土や領海に接近し侵略を試みる敵性勢力を排除することである。

目標が水平線の向うに存在する場合は、航空機の誘導を受けられる場合においてのみ、照準をつけることができるものなので、諸外国を狙うことができるという兵器でもない。

なおかつ2017年9月現在、これら連隊が保有する主力ミサイルシステムの有効射程距離は、航空機の誘導を受けたとしても150kmから、最大で200kmとされている。

88式地対艦誘導弾システムと呼ばれるシステムであり、この数字をよく覚えておいて欲しい。

 

そして現在、現場配備が進み始めているのが最新の12式地対艦誘導弾。

防衛省の公式Webサイトでは、その有効射程距離を「100数十km」と表記しており、公式には明らかにしていない。

しかし、30年前に制式化され配備が始まった88式地対艦誘導弾の射程距離が150km~200kmである以上、2012年に制式化された最新の12式地対艦誘導弾の有効射程距離が「100数十km」というのは、明らかにトボケである。

産経新聞は「およそ200km」とあからさまに本当のところを書いているが、おそらくこの数字も控えめだろう。

 

本当のところはおよそ200km~300km程度はあるものと予想される。

そのため、新基地建設が予定されている石垣や宮古から200km程度の距離であれば、100発100中で有害通行を試みる敵性勢力を撃沈することが可能であるのは疑いようがない。

 

わかりやすく、宮古島と石垣島を中心にした各方面への距離を、同心円で描いてみたい。

 

 

尖閣諸島は、この縮尺では島が小さすぎて見えないので、赤点で記している。

それぞれ、宮古島と石垣島から、150km~200kmの位置だ。

 

すなわち、陸上自衛隊が保有する88式地対艦誘導弾はもちろん、最新の12式地対艦誘導弾では極めて高い精度で、これら地域をそのカバーエリアとすることができるということだ。

なおかつ一方の基地が攻撃を受けても、もう一方が敵性勢力に直接攻撃をかけることができる位置に存在するので、 中国人民解放軍は  敵勢力は、石垣島や宮古島にすら、容易に攻撃を仕掛けることができない体制を取れることがお分かりいただけるだろう。

 

この防衛体制を一つの図で重ね合わせるとこうなる。

 

 

この図からも明らかなように、宮古島と石垣島に陸上自衛隊のミサイル基地が新設されると、尖閣諸島の防衛は極めて盤石なものとなる。

なおかつ、その防衛拠点である宮古島や石垣島に攻撃を仕掛け破壊しようとしても、もう一方に攻撃を受けるだけなので容易に近づくことすらできないだろう。

もちろん、これ以外に海上自衛隊の潜水艦に護衛艦、対艦・対潜ヘリ、航空自衛隊の攻撃機も存在する。

 

そして、宮古島と石垣島に地対艦ミサイルが配備されるもっとも大きなメリットだが、それはユニットコストが極めて安いと言うことだ。

 

最新の12式地対艦ミサイルセットの場合だが、その調達コストは防衛省の公式サイト発表資料を引用すると、僅か81億円という安さである。

比較のために、尖閣周辺に1隻の護衛艦を新規に建造し出動させるとした場合、建造費用はもっとも小型のものでも250億円からであり、汎用的な護衛艦で500億円程度。

最新のDDH(ヘリ搭載型護衛艦)の場合、1200億円以下になることはまずない。

 

同様に我が国の主力戦闘機であるF-15戦闘機は1機で約100億円。

空対艦誘導弾を運用可能なF-2戦闘機で1機120億円である。

なおかつ、これらユニットは単独で行動することは在りえず、戦闘機パイロットや護衛艦乗組員の人件費、教育費なども一切入っていない。

 

これらと比較すると、地対艦誘導弾のユニットコストの安さがお分かり頂けると思うが、さらに地対艦誘導弾の場合、敵性勢力から攻撃を受けても、容易には破壊されないというメリットが有る。

移動しながら攻撃可能であり、そして偽装しながら誘導弾を撃ってくる地上のユニットを破壊することは相当困難であるからだ。

つまり、石垣島と宮古島に陸上自衛隊の基地を作られると、中国人民解放軍は、尖閣周辺に対する侵入を相当程度ためらわざるをえないということになる。

 

なおかつ、航空機のようにペイロードという考え方も必要が無いので、予算と場所があれば、いくらでも撃つことができることから、仮に敵性勢力から飽和攻撃を受けるようなことがあっても、十分対処が可能となるメリットも大きい。

 

そしてこれも重要なことなのだが、改めて宮古島と石垣島からの、地対艦ミサイル連隊の射程距離を、同心円から確認して欲しい。

これらミサイル連隊は、中国や北朝鮮の国土を攻撃することは絶対にできない事がお分かりいただけるだろう。

それどころか、台湾にすら、そのミサイルは届かない位置関係だ。

 

つまり、我が国を侵略しようと近づいてきた侵略者にのみ届く武器であって、

「基地ができたら攻撃を受ける可能性があるので、陸自の新基地建設に反対!」

という意見も無意味なものであることが、お分かりいただけるのではないだろうか。

 

侵略する意図で近づく敵に対してのみ攻撃する能力がある基地を建設しようという計画に対し、基地ができたら攻撃されるので反対、という意見は、もはや噴飯物の反論である。

これら事実は、沖縄に陸上自衛隊の新基地を作らせまいとする運動の本当の目的が、中国人民解放軍のサポートであることを強く示唆するものであると言えるだろう。

 

なお繰り返しになるが、これらの論証は中国人民解放軍をサポートすることに利益がある特殊な勢力に向けたものであって、平和を愛し、沖縄を愛し、その情熱を市民運動に捧げている個人や市民に向けたものではない。

石嶺香織・宮古島市議についても、自衛隊員が来れば性暴力が起きると危惧しているのは、客観的データに基づく分析というよりも、漠然とした不安から出た想いであり、宮古を愛する気持ちからつい出てしまった言葉なのであろう。

 

理解できるものではなく、規律正しく任務を果す自衛隊員に対する極めて無礼な発言であり、容認できるものではないが、どうか冷静に、本当に自衛隊員たちは性暴力集団であり、陸上自衛隊の駐屯地基地周辺では性暴力事件が多発しているのか。

事実関係を確認した上で、公職にあるものとして責任ある言動を心がけてもらえれば幸いだ。

 

そして、このコラムで明らかにしているように、宮古島や石垣島に陸上自衛隊の地対艦ミサイル連隊が駐屯することがどれほど我が国の平和と安全に寄与する抑止力となるのかに思いをはせ、ぜひ誘致運動賛成派に廻ってもらうことを期待したい。

 

沖縄と日本を愛する心があるのであれば、反対する理由など無いはずではないだろうか。

(了)

 

【注記】

このページに使用している地図は全てgooglemapが出典であり、目的に応じて加工し引用。

このページに使用している画像は、防衛省のルールに従い、防衛省のHPから引用。

※画像はそれぞれ、軽量化やサイズ調整などを目的とし、軽量化処理やオリジナルからトリミングし切り取って用いているものがある。

自衛官各位の敬称略。

【引用元】

防衛省陸上自衛隊 第1特科団公式Webサイト(笹川3尉)

http://www.mod.go.jp/gsdf/nae/1ab/topic/topiccontent/topic280319ninkan/topicformat.html

Pocket