さて、懲りもせずに次期統合幕僚長の人事予想だ。
前回は2017年10月の予想で、2017年12月に、杉山良行(第24期)・航空幕僚長が第31代統合幕僚長に着任する可能性が高いと予想していた。
こちらのコラム
【コラム】次期統合幕僚長人事予想(第31代・2017年10月)
であり、既に外した予想ではあるが、よければ参照して欲しい。
予想を外してしまい、お詫び申し上げます・・・m(_ _)m
さて、その上でだが、前回の予想のポイントは大きく2つ。
北東アジア情勢、とりわけ北朝鮮情勢がなんらかの形で落ち着きを得て、動乱の可能性が去っているようであれば、2017年12月で河野克俊(第21期)・統合幕僚長はやっと退役をすることができるだろうというもの。
そしてその際は、航空幕僚長であった杉山が後任に就くと言う予想だった。
一方で、北朝鮮情勢の緊張状態が変わっていないようれあれば河野は留任し杉山は退役。
この場合、陸上幕僚長である山崎幸二(第27期)が2018年5月ごろをめどに第31代・統合幕僚長に着任するはずだ、という予想だった。
今回は、このような予想を外した後での新たな予想だが、その前に、統合幕僚長とはどういう存在なのかについて、また少し考えてみたい。
内容は、前回コラムとある程度同じの焼き直しになるかもしれないが、ご容赦願いたい。
統合幕僚長は、その存在と人事そのものが国家の意志だ。
極論すれば、実務的な能力よりも、その人がどんなキャリアを歩んできて、どんな人物であるのか(人物であると伝えられているのか)。
国家として日本が誰に、世界有数の実力組織を任せる状況であると判断しているのかという時の政権の諸外国へのメッセージであり、意志表示に他ならない。
そういった意味においては、2017年12月の段階で、統合幕僚長には杉山(元・航空幕僚長)が着任していても、全くおかしい状況ではなかった。
むしろ、代わることを予想している下馬評の方が多く、そうならない理由といえば、北東アジア情勢の緊迫度と、過去の人事の慣例くらいであっただろう。
南西航空方面隊、西部航空方面隊の空を知り尽くし、対中国という意味でも、対北朝鮮といういう意味でも、この方面を重要視する我が国の意志表示としては極めて適任の人事であった。
情に厚く部下からの信頼も厚いが、強い意志で任務をやり遂げる姿勢は、敵性国家にとって極めて嫌な人事であったはずだ。
それだけに、航空幕僚長で退役となったことは非常に残念であった。
一方で、統合幕僚長である河野についてだ。
一般に河野の人物像は、米国に太い人脈を持ち、有事に於ける米国との意思疎通に極めて適任であるということ。
政治家の分類で例えると、タカ派というよりもハト派寄りの印象があり、河野の存在が脅威であると諸外国に過度に感じさせていないこと。
政治家と背広組、制服組を繋ぐ架け橋として、極めて円滑に機能していること。
こんなイメージが定着しているように思われる。
官邸サイドから「ドラえもん」というあだ名を付けられているのは、容姿だけでなく、そのような「便利過ぎる」役割や存在も含めた上での愛称なのだろう。
これほどの人材は簡単に退役させるわけに行かないのはもちろんだが、一方で、どんな理由があっても強制的に新陳代謝を図らないといけないのが軍事組織だ。
組織の在り方や立案される作戦から合理性が排除され、例えわずかでも「誰かの色」がつくと、我が国はまた”いつかの失敗”を繰り返すことになりかねない。
それ程までに、軍事組織には属人的な「色」を定着させてはならない。
そういった意味では、河野の「長期政権」はもはや危惧される領域に入りつつある。
2度に渡る異例の定年延長を経て、既に昭和20年代生まれの自衛官というだけでも、河野一人だけという状態だ。
河野の同期である21期はもちろん、もはや22期、23期、24期の自衛官すら誰一人おらず、25期も海上幕僚長の村川豊(第25期)だけだ。
ここまで来ると、いくら河野が極めて優れた自衛官であることは理解した上でも、自衛隊には人材がいないのかという、諸外国からの印象にも繋がりかねない。
官邸サイドも、北東アジア情勢を見極めながら交代の時期を探っているというのが実情だろう。
逆に言えば、2017年12月の人事では、一般に知れ渡っているよりも、朝鮮半島情勢は相当に緊迫の度が高いまま年を越したということなのだろう。
官邸や政治サイドも、このような問題は十分に理解をした上で、最高幹部人事はにわかに動かしがたいという状況。
結果として朝鮮半島で騒乱が起きるかどうか。
2018年1月現在では「無いのではないだろうか」という空気が支配的になっているが、日本政府は、様々なインテリジェンスがもたらす情報から、そのようには考えていないということだ。
戦争は誰も望まないものの、日本政府はその可能性に十分に備えることを選び、河野とともに2018年の年越しを迎えたと言うことなのではないだろうか。
一方で、別の可能性だ。
2017年10月のコラムでもお伝えしたが、これまでの統合幕僚長(統合幕僚会議議長)のポストは、60年以上一貫して
陸→海→陸 あるいは 陸→空→陸
という持ち回りのパターンはあっても、
海→空→海 あるいは 空→海→空
というパターンになったことは一度たりともない。
つまり、陸上幕僚長のみが2~3代に1回は必ず統合幕僚長への就任が約束されてきた歴史があり、その分、海か空が飛ばされてきたということだ。
3代続けて陸上幕僚長が統合幕僚長に選ばれなかったという事は、統幕長(統幕議長)のポストが生まれてからたったの1回も存在しない。
こうなると、もはや慣例から人事が決まるのではないかというほどにルールが固定化されているきらいがあるが、2017年12月の杉山の退役は、この慣例の強固さの証左であるとも考えられるだろう。
統合幕僚長のポストは、28代、29代、30代が以下のようになっている。
第28代 折木良一(第16期・陸上幕僚長出身)
第29代 岩崎茂(第19期・航空幕僚長出身)
第30代 河野克俊(第21期・海上幕僚長出身)
陸→空→海という流れだ。
順当にいけば、次は陸でなければ慣例破りになる。
だから、タイミング的には明らかに杉山であったが、退役をさせた。
次の統合幕僚長は陸上幕僚長のポストであり、我が国が戦争を決意したタイミングでもない限り、この慣例はそう簡単に崩さないという意志表示であるとも解釈できるだろう。
それこそ日露戦争の際に、児玉源太郎が親任官(大臣など天皇陛下が直接任命する官職)である陸軍大臣・内務大臣・文部大臣を辞任し、勅任官(次官・局長クラス)である参謀本部次長に「格下げ異動」となる、極めて慣例破りな人事を受け入れたように、である。
軍事組織における人事の硬直化は許されないものの、一方で、慣例を崩すということは、国家として特別な意志表示でもあるということだ。
だからこそ、余程特別な理由もない限り、これまでの慣例を変える必要は無いということなのかもしれない。
このような前提を置いた上で、2018年1月現在、第31代統合幕僚長候補には、以下の3名がいる。
山崎幸二(第27期)・陸上幕僚長 2017年8月着任
村川豊(第25期)・海上幕僚長 2016年12月着任
丸茂吉成(第27期)・航空自衛隊 2017年12月着任
以下、この3名が第31代統合幕僚長に着任するであろう理由、着任しないであろう理由を考えてみたい。
山崎(陸上幕僚長)について
【着任する理由】
・持ち周りの統合幕僚長人事の慣例に沿う(=次は陸上自衛隊の番)
・陸上自衛隊は大所帯であり、政治家にとってその支持は欠かすことができない
・村川(海上幕僚長)の統幕長への着任が想定できず、また航空幕僚長になったばかりの丸茂が僅かな期間で統幕長に昇るとは思えない(消去法)
【着任しない理由】
・1佐以降、西部方面隊での指揮経験が極めて少なく、2018年現在のホットスポットに関する知見に不安がある。
・直接的な戦闘職種出身ではないことから、現下の安全保障環境を考えるとメッセージ性が穏健と受け取られる可能性がある
といったところだろうか。
その一方で、山崎にはどこか特別な空気を感じる。
選ばれた将官のみが身にまとっているような、何とも言えない存在感の強さだ。
しかしながら、1等陸佐以降、我が国のホットスポットである西部方面での勤務経験が極めて少ないことはどうしても気になる。
山崎が統幕長に着任する積極的な理由は見出しにくいのだが、とは言えやはり慣例は大きいのではないだろうか。
村川(海上幕僚長)について
【着任する理由】
・陸海空の幕僚長として最先任(25期)であること
・21期である河野の後任として、27期である山崎(陸)や丸茂(空)では間が空き過ぎること
【着任しない理由】
・2代続けての海上自衛隊出身はまず考えられないこと(慣例破りどころではない)
・海自初となる後方支援(経理)出身の幕僚長であり、2018年現在の東アジア情勢を考えると、統幕長人事がもつ諸外国へのメッセージとして疑問があること
・米軍とのパイプを考える上で、特筆するべき強さが見いだせないこと
などであろうか。
村川が統幕長に着任することは、まず無いのではないだろうか。
丸茂(航空幕僚長)について
【着任する理由】
・2018年現在、我が国のホットスポットにおける指揮経験が極めて豊富であること
・米軍とのパイプや意思疎通に不安がないこと
・威厳を感じさせながらも親しみやすい人柄であるなど、現統幕長である ドラえもん 河野に通じるものがあること
【着任しない理由】
・現統幕長である河野の任期が、2度の延期の上でも2018年5月までであり、再度の延長は考え辛く、そのタイミングで空幕長着任からわずか5ヶ月の丸茂が統幕長に着任することは想定できないこと
・慣例破りであること
といったところであろうか。
これらを総合的に考えると、それぞれに着任するであろう理由、着任しないであろう理由はあるものの、第31代統合幕僚長は山崎(陸上幕僚長)になるのではないだろうか。
とは言え、山崎には1佐以降、西部方面での勤務経験が少なく、指揮官として「ホットスポットにおける肌感覚」が十分とは思えないのは先述の通りだ。
そのため、山崎であることは間違いないと思われるものの、「統合幕僚長の慣例」以外に、積極的な理由が見出し辛いのも、また本音ではある。
慣例を無視し、なおかつ2018年5月に河野を退役させず、3度めの定年延長があり得るとすれば、その際には丸茂(航空幕僚長)が選ばれる可能性が高くなる。
その場合、2018年12月辺りをめどに、丸茂吉成が第31代統合幕僚長に着任することになることも十分ありそうだ。
結論として、2018年5月に陸上幕僚長である山崎幸二(第27期)が第31代統合幕僚長に着任するという予想を、2018年1月に置いておきたい。
これが流れた場合、2018年12月辺りで丸茂吉成(第27期)が着任することになるだろう。
なお、ここまで村川については、全く予想していない。
ここまで村川を全く予想せずに外した場合・・・頭を丸め、坊主頭をアップしてお詫びしようと思う。
まずは2018年5月だ。
延期された河野の任期が切れる時に何があるのか。
楽しみに待ちたい。
(了)
【注記】
このページに使用している画像の一部及び主要経歴は、防衛省のルールに従い、防衛省のHPから引用。
主要経歴については、将補以上の階級のものにあっては防衛年鑑あるいは自衛隊年鑑も参照。
自衛官各位の敬称略。
※画像はそれぞれ、軽量化やサイズ調整などを目的に加工して用いているものがある。
【引用元】
防衛省陸上自衛隊公式Webサイト(顔写真)
http://www.mod.go.jp/gsdf/about/2016/20160929.html
防衛省海上自衛隊 舞鶴地方隊公式Webサイト(視察写真)
http://www.mod.go.jp/msdf/maizuru/dekigoto/dekigoto.html
防衛省航空自衛隊 西部航空方面隊Webサイト(顔写真)
http://www.mod.go.jp/asdf/wadf/activi/activ3/27act/2711/index1.html
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