自衛隊の人事をバグらせた男 竹本竜司(第31期)について

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またひとり、日本にとって宝ともいうべき最高幹部が一人、自衛隊を去ってしまった。

竹本竜司(第31期)・前陸上総隊司令官のことである(以下敬称略)。

久しぶりのブログ更新で恐縮だが、私にとっては仕事どころではないくらいの、いろいろな意味で思い入れのある最高幹部であった。

その竹本のご退役に際して、思いの丈を綴っていきたい。

 

(画像提供:陸上総隊司令部公式X

自衛隊ファンであればよくご存知だと思うが、竹本と言えば15歳にして少年工科学校(現・高等工科学校)に入学し、3等陸士から自衛隊のキャリアを歩み始めた男だ。

昭和55年(1980年)4月2日に陸上自衛官になり、令和6年(2024年)3月28日、すなわち1週間ほど前にご退役の日を迎えたばかりである。

まずは、44年もの長きに渡り国防の為に捧げられたその人生に、心からの敬意と感謝を申し上げたいと思う。

本当にお疲れさまでした。

ありがとうございました。

 

そして自衛隊の人事について少しでも詳しい人であれば、この竹本が陸上自衛隊の人事を「バグらせた」ことをご記憶の人も多いだろう。

2023年春の人事だったが、竹本の1期後輩、森下泰臣(第32期)が陸上幕僚長に昇任したときのことである。

通常、自衛隊に限らず国家公務員、とりわけ最高幹部の人事は今も色濃く、年齢や期別により先輩から後輩へ、申し送りの慣習が続いている。

それは年功序列の延長というものではなく、属人的な組織運営を排除するための知恵なのだが、本論ではないのでここでは割愛したい。

 

そして2023年の春のこと。

竹本の1期後輩である32期の森下が陸上幕僚長、すなわち陸上自衛隊のトップに昇任したからには当然のことながら、31期より上の幹部は全員が退役になるのが慣例であった。

もしくはキリの良いところで現在のポジションを最後に退役勧奨されるのが、戦後から続く自衛隊の常識である。

私の知る限り、例外はほぼない。

 

にもかかわらずこの森下の昇任に際して竹本も、西部方面総監から陸上総隊司令官に昇任してしまうのである。

厳密に言えば、国家公務員指定職の号俸上、竹本の前職である西部方面総監と陸上総隊司令官は同格ではあるが、組織の立て付け・運用では事実上の昇格である。

というよりもそもそも、後輩が陸上幕僚長に昇るタイミングでこんな異動が発令されるなど前代未聞だ。

ではなぜ、こんな巨大組織の長年の人事をバグらせてでも、竹本は陸上総隊司令官に昇任したのか。

 

(画像提供:陸上自衛隊第1師団公式フェイスブック

一般的には、間もなく発足する予定である統合司令官の初代ポストを陸自が確保するための布石であったという見方を、よく耳にした。

あるいは、切迫する有事を想定し、米国の最高幹部にも通じ、加えて数少ない技術畑出身の最高幹部である竹本を温存したかったのではないか?

という書き物を目にしたこともある。

 

確かに、そういった側面もあるのかも知れない。

しかし私は、そんな次元とは異なるところで、竹本が「人事の慣例をバグらせて」でも1年間、陸上総隊司令官になぜ着任したのかを知っている。

それは、能力、人柄、経験値、人としての魅力がこれ以上はないほどに、優れていたからである。

なぜそんなことを、断言できるのか。

 

竹本がご退役をされたのでやっと書けるが、私は少年工科学校第26期卒業生の皆様から「名誉同期」の栄誉を頂いている(泣)

もちろん一部の有志からそう呼んで頂いているだけだが。

そしてその26期の ロクデナシ 優等生であった私の自衛隊の師匠の一人、江村から竹本にお引きわせ頂き、26期の皆様からは本当に、たくさんのことを教えて頂いた。

一緒に酒食を重ねさせて頂き、そのお人柄や哲学にも身近に触れることができた。

中でも竹本は、強い意志を持ちながらも全体を俯瞰し、何が全体最適なのかをいつも考えているお人柄があらゆる場所・行動でにじみ出ていたのが印象的だった。

その魅力を、とても言葉に尽くすことなどできない。

圧倒的な能力がありながらも、必要に応じて存在感を消しきり、役割に徹して組織と同僚、部下のために力を尽くすリーダーシップというのであろうか。

 

そんな竹本の哲学が感じられる、少しレアな写真をここで一つご紹介したい。

今から40年以上も前の、竹本の写真である。

これも、ロクデナシ 江村さんから頂いた、少年工科学校時代の竹本の若き日の姿だ。

右端が竹本で、その横が江村である(ΦωΦ)フフフ…

それから40年以上の時が流れ、私は少年工科学校第26期の皆様の表敬訪問に同行させて頂き、2024年2月、陸上総隊司令部に竹本を訪ねた。

その時の写真が、以下である。

真ん中が竹本、その右横がロクデナシの江村。

一人だけ若いのが私だが、ぜひ当てていただきたい(笑)

上記の写真から40年経っても何も変わらない友情、同期への思い、責任感・・・

イカツい顔が全員笑顔になったことを除いて何も変わらない。

私は本当に、この場所に立たせて頂き、誇り高い自衛官、元自衛官の皆さまと記念撮影に収めていただいたことを、心から誇りに思っている。

 

最後に、その竹本のご退役が決まった時に、少年工科学校第26期の同期一同から竹本に、こんな電報が送られたそうだ。

そのキャプチャをご紹介して、今回の記事の締めにしたい。

 

自衛隊といえば当然のことながら階級社会である。

最高幹部に昇った竹本とは違うキャリアを選び、民間企業に就職したもの、下士官で自衛隊生活を終えたもの、尉官・佐官など竹本の部下として制服を置いたものなど様々である。

そういった階級や役職を超え、ここまで愛され、支えられた竹本の、44年間の自衛官生活に改めて、心からの敬意を感謝を申し上げたい。

本当に、お疲れさまでした!!

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4件のコメント

そのロクデナシです笑
貴兄も本なんぞを出したり忙しぶって居ますが、さぞ儲かって居るのでしょうね笑
手数料を取らず厚意で何か所も連れて行った私をそんな呼び方するなんて、ここをお読みの方にはどちらが良い人かはお解りになるでしょうから、良しとしましょう笑

冗談はさておき、竹本、堀江、濱田が退官してしまったので、遠くに遊びに行くための口実が無くなってしまい、寂しい限りです
※コロナのお陰で濱田のところは行けませんでしたが・・・
次回は君の奢りで温泉でも行きましょうかね♪

あ、ロクデナシさんだ
本当に、26期の皆さんが退官されてしまい、寂しくなりましたね・・・。
次の伊香保、お声がけ頂くことを楽しみにしています!
竹本さんの大好きな日本酒を持参しますのでお許しください
(^v^)

陸の♯31は皆勇退ですね。お疲れさまでした。
退官将官の追想が堀江さんから竹本さんに一気に飛んじゃいましたね。名将たちの追想を楽しみにしていましたが。
旧軍は、戦争に強い人が参謀総長、政治的手腕にたけた人が陸軍大臣。これからの陸自は???運用にたけた将軍と言われた人達が辞めて、行政的な名将たちが残るんでしょうか。

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