沖津正俊(おきつ・まさとし)|第40期相当・第2施設大隊長

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さて、その沖津だが、先述のように平成8年に幹部候補生に合格している部内幹部だ。

幹部としての初任地は、第10施設群第326施設中隊の小隊長であった。

現場を知り尽くした上での、非常に頼もしい幹部任官である。


(画像提供:第2施設大隊公式Webサイト

その後、第2施設大隊(船岡)を経て、中隊長ポストは第6施設大隊の第2中隊(神町)で着任。

その後も職種部隊では、施設学校勤務を除けば第6施設大隊の大隊本部や東北補給処の整備部(仙台)、東北方面総監部の装備部(仙台)など、一貫して東北方面隊で力を尽くしてきたことが印象的なキャリアだ。

またその間、平成16年11月からは、第4次イラク復興支援群の施設小隊長としてイラクに赴くなど、世界をまたにかけた活躍も目立つ。

イラク復興支援群は、戦争で破壊されたイラクにおいてインフラの修復や学校などの建設を行った、実務部隊であった。

まさに施設科の真骨頂といったところだが、当然のことながら戦後間もない混乱した状況では、危険と隣り合わせの現場でもあった。

そのような最前線も経験し、平成29年12月から、第2施設大隊長を任されている。

 

ところで、先述のように沖津は、部内から2等陸佐にまで昇った幹部だ。

管理人はこのような、世間一般的な学歴ではなく、自衛隊基準での「力量」が評価され幹部に昇る制度を素晴らしいと思っている。

しかし当サイトで繰り返ししつこく批判しているように、プレジデントオンラインに掲載された、KO大学のエラいセンセイは、このような「低学歴幹部」こそ、自衛隊の精神論の温床であると書き連ねた。

日本の公務員の中で、自衛隊の幹部だけが驚くべき低学歴集団であり、知性を軽んじること甚だしいという内容のものである。

 

そしてその比較として、

「他省庁では、キャリア官僚のほぼ100%が大卒である。」

「にも関わらず、自衛隊の幹部は実に45%しか、大卒がいない」

と比較し、自衛隊がいかに知性を軽んじる、根性論の組織であるかを力説していた。

 

当サイトでは、低劣で批判的な言葉をほぼ使うことはないがさすがにこの筆者の頭の悪い論評には、呆れて言葉が出ない思いであった。

なぜか。

何度も何度も書きたいので、今回も許して欲しい。。

まず、「キャリア官僚」と「幹部自衛官」は全くの別物だということすら、理解していないということだ。

それがいかにも同列であるかのように論じるところに、しっかりとモノを調べてから他者の批判をするという、言論人の基礎すらできていないことが窺える。

 

「幹部自衛官」は、中央官僚に例えればノンキャリが着任する、地方出先機関の係長クラスも含まれる階級である。

そもそもが、人事の扱いも例えば陸上自衛隊では、CGS(指揮幕僚課程)などの上級課程に合格するまでは地方であり、中央の扱いでは無い。

言ってみれば、地方公務員の扱いだ。

 

だいたい、人数で比べてみればわかる話ではないか。

一例で、財務省が毎年採用するキャリア官僚の人数は、20名~30名程度だ。

国家公務員全体の、キャリア官僚の最終合格者数(国家公務員採用総合職試験合格者数)も、2017年度の合格者数は、1800人余であった。

それに対し、自衛隊は防衛大学校卒業生だけでも400~500名。

防大と非防大(一般大学、部内など)の比率はおよそ1:1であったかと記憶しているので、おそらく毎年800~1000名程度が、「幹部自衛官」に任官される計算になる。

にも関わらず、「キャリア官僚=幹部自衛官」と、なんとなくのイメージで解釈し、その大卒比率を比較するなどアホのやることである。

敢えて言うなら、キャリア官僚と比較するのであれば陸海空の「将」にあるもので比較するべきだろう。

ただそれでも、陸海空の「将」にあるものの人数は、概ね57名ほどだ(2018年6月現在)。

であれば、一般に各省庁の「キャリア官僚」と比べるには、陸海空の将にあるものでも、まだ多すぎて比較対象にならない。

なぜなら、そもそも陸海空の自衛隊では、将に昇りながらも統合幕僚長(制服組トップ)になることを予定していない補職やキャリア形成を経てきた幹部も、多く含まれるからだ。

そのようなことを考えると、敢えてキャリア官僚と自衛隊を比べるなら、陸海空の1選抜で将に昇った最高幹部と、他省庁のキャリアがやっと比較対象になる話だ。

その上で、その駄文で熱心に比較していた「大卒比率」「博士号取得比率」をしてみれば良い。

まだ、その無意味な分析結果と同じことが、果たして言えるだろうか。

 

自衛隊では、1選抜で将に昇るようなエリートはもちろん、将官にある多くのものが、そして幹部だけでなく曹士でもそれぞれが、与えられた任務に対し驚くほど多様な能力の高さを持つ、尊敬できる人ばかりだ。

それは下士官であっても同様で、かつて当サイトでご紹介した加藤直樹(曹学8期)・最先任上級曹長も、その一人である。

 

しかしその、多くの幹部曹士から敬意を集める能力の源泉は、決して学歴ではない。

そして組織は決して、学歴があるものだけで満足に運営できるものではない。

現場を知り尽くし、その上で学を修めた優秀な現場運用責任者の存在こそ、日本的な組織の強さと言ってもよいだろう。

そしてそれが、今回ご紹介させて頂いた沖津のような、部内から昇任した幹部である。

 

そのような、極めて優秀な、現場を知りつくした上でリーダーシップを発揮する幹部自衛官に対し、それでもまだ

「異様な低学歴」

「知性を軽んじる組織」

という評価を変えるつもりがないのであれば、日露戦争で世界を驚かせ「奇跡の勝利」を呼び込んだ、近代日本の至宝とも言うべき陸軍軍人の児玉源太郎・満州軍総参謀長。

その児玉が果たしてどのような”学歴”を経て陸軍のトップに昇ったのかを調べてみて欲しい。

それこそ、下士官から叩き上げた”部内幹部の強さ”を理解することができるだろう。

 

自衛隊に対する国民の理解は、かつて無いほどに高まっている状況ではある。

しかしながら、まだまだこのような事実誤認に基づいた無知な批判をする「知識人」がいることは、残念な限りだ。

少し調べればわかることすら満足に調べず、結果ありきのデータを集めた上での批判は、ただの誹謗中傷よりもタチが悪い。

 

少し衝撃的な、社会的な影響力もある方からの幹部自衛官批判でつい冗長になってしまったが、ぜひ多くの幹部自衛官、とりわけ部内から昇任した幹部の方には、お伝えしたい。

国民の多くは、そんな叩き上げの皆さんとともにあるということだ。

そして「目的意識のない学歴」などというものは屁の役にも立たないことも、高学歴と呼ばれるような大学を出ている者ですら、よく知っている。

 

ちなみに、この記事を書いたKO大学のエラいセンセイは、それまで3~4ヶ月に1度の割合でプレジデントに寄稿をしたいたのだが、この記事を最後(2018年9月)に、途絶えている。

事実誤認の浅い記事を書いた上に、ネット上で散々にその間違いを指摘されたので、いろいろと仕事に差し障りが出たのだろうか。

人や組織を批判する時には相当な覚悟を持つべきだと言うことだけ、とても勉強になった。

 

沖津のお名前をお借りして、余計なことまでお話してしまった。

これからも沖津2佐の他、多くの誇り高き幹部自衛官、そして幹部曹士の皆さんを、これからも声を大にして応援していきたい。

 

※文中、自衛官および関係者各位の敬称略。


(画像提供:第2施設大隊公式Webサイト

◆沖津正俊(陸上自衛隊) 主要経歴

平成
9年3月 第10施設群第326施設中隊小隊長(船岡)
12年8月 第2施設大隊本部第3科(船岡)
15年8月 第6施設大隊第2中隊長(神町)
16年11月 第4次イラク復興支援群施設小隊長
18年3月 施設学校第1戦技教官室教官(勝田)
20年3月 施設学校研究部研究員(勝田)
21年3月 第6施設大隊大隊本部第3係兼第2係(神町)
23年4月 施設学校教務課教務班長(勝田)
24年8月 東北補給処整備部施設課長(仙台)
26年8月 第10施設群本部第3科長(船岡)
28年8月 東北方面総監部装備部施設科建設班長(仙台)
29年12月 第2施設大隊長兼第2師団司令部施設課長(旭川)

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2件のコメント

キャリア官僚と幹部自衛官の比較は無理があるのはご指摘の通りですが、諸外国の士官と日本の幹部自衛官の学歴を比較すると、やはり日本の幹部自衛官は異様なまでの低学歴集団だと思いますが、その辺いかがですか?

S様コメントありがとうございました。
ご指摘について、私は全くそうは思いません。
理由は大きく2つです。
まず「諸外国に比べ」低学歴であるという点。
元になった慶応大学の先生の論文では、諸外国というのを、どの程度の軍隊規模、どのような運用思想を想定している国と比較したのか正直よくわかりません。
またご存知のように、自衛隊は、比較すべき運用思想を持つ軍隊が他に存在しません。
ちなみに慶応の先生のコラムでは、冒頭で
「しかも、それは米軍や韓国軍にも劣るレベルだという。」
と書き始めています。
外征型であり、なおかつ世界最強の米軍を最低ラインであるかのように比較対象にし、また極端な陸軍中心型である韓国軍とも比較するなど、比較のモノサシが相当でたらめです。
軍隊とは国家の安全保障の為に存在するものであり、目的からブレイクダウンして、その構成、さらには幹部曹士の教育はプランニングされるべきです。
にも関わらず、「米軍や韓国軍にすら劣る」と、目的がまるで違う組織を比較して学歴を比較することが間違っています。
また最低限、「諸外国に比べ低学歴」というのであれば、G20 参加諸国の全ての国程度とは比較して欲しいものですが、定量的なデータが示されていません。
国際常識に外れると言う主張をするのであれば、その程度のデータは必要です。

2つ目の理由です。
こちらの方がむしろそう思わないメインの理由です。
もしあらゆるデータを調べた上で、自衛隊の士官が世界的に見て圧倒的に「低学歴」であるという事実が明らかになった場合。
それはつまり、内部から多くの曹士を抜擢し、幹部にしていることが100%の理由です。
幹部に任官するには、防衛大学校や一般大学を卒業し幹部候補生になること。
それ以外に、内部から抜擢されてあるいは大卒資格をとって採用試験を受け、幹部候補生になること。
主にこの2つのルートしかありません。
つまり、「低学歴集団」であるとするならば、それだけ現場を知る曹士経験者を、幹部に抜擢しているという事実を意味します。
自衛隊はそれだけ、「現場を知る幹部を重視」している事を意味するのであり、「知性を軽視」しているのではありません。
これはおそらく、先の大戦での組織運営の失敗も反省した上での編成なのでしょう。
旧軍では、現場を知らないエリートが無謀な作戦を次々に実行し、異常な自滅戦を繰り返しました。
まさに、現場を知らない軟弱な「知性」が、あのような悲劇と国家の破綻を招いたのです。
その反省から、現場を重視した組織になるのは当然の学習です。

なお余談ですが、戦争とは一般に、「底辺同士の戦い」と揶揄されます。
どの国でも、軍隊に入るのは食い詰めもので、字も読めず十分な言葉も話せず、他に仕事がない社会の最底辺層が志願するからです。
にも関わらず、自衛隊に志願をする曹士は文字通り「異常なまでに十分な教育を受けた集団」であり、ボトムのレベルの高さには、米軍の幹部も、
「なぜ自衛隊の曹士は、あんなにレベルが高いんだ」
と驚くことが多いと聞きます。
つまり、諸外国の軍隊ではとても、曹士から幹部に引き上げるレベルにある軍人がいないにも関わらず、自衛隊には幹部に昇任させてしかるべき曹士が多くいるということでもあります。

自衛隊が「低学歴」であるとするならば、それは我が国の国防に照らして目的にかなっているからであること。
但しそれは「知性の軽視」ではなく「現場重視」であること。
加えて、1選抜(将に昇り、最高指揮官になる幹部)の幹部では、例外なく大学院に進み、あるいは諸外国の大学院や研究機関への留学経験があること。
以上の理由から、「自衛隊が異様な低学歴集団である」という侮蔑は、まったく妥当性を欠くと考えています。

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