自衛官は定年退官後、どうやって再就職しメシを食っているのか

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久しぶりの管理人コラム更新である。

最近、管理人コラムどころかほぼ自衛隊人事異動記事しか更新できていないので、

「もうやる気なくなったの?」

「もしかして襲撃された?」

などのメールを頂くことも多いのだが、一応元気に頑張っているので読者の皆さんには安心して頂きたい。

 

さてその上で、今回はいつか書きたいと思っていた、「自衛官の退役後の身の処し方」について、少しお話をしたいと思っている。

ぜひ、読者である皆さんには一緒に考えて頂きたいと願っている。

 

今回皆さんと共有したい管理人のテーマは、一つだ。

「自衛官の再就職だけは、国が責任を持って面倒を見なければならない」

という問題提起である。

 

ご存知のように自衛隊には、若年定年制と言って世の中の一般企業よりもかなりの若年で、定年退官を迎える制度がある。

自衛官という仕事の性質上、その趣旨は理解できなくはない。

体力だけで勝負をするわけではない幹部自衛官にしても、新陳代謝を活発に維持する必要がある軍事組織であれば、「大きな権力を長く与えてはならない」ことも理解している。

しかしそれにしたところで、下記のような定年退官年齢はいかがなものだろうか。

引用:防衛省「自衛官の退職年齢について」より

https://www.mod.go.jp/pco/toyama/kigyou/teinen.html

しかもこれで、定年延長制度が実施された後の年齢なのだ。

つまり当面のところ、このままこの年齢が維持される可能性が高いという前提の制度である。

これとは別に、将官に昇った者の退官は名目上、60歳前後となっているが、一選抜でもない限りその多くが同期に+して1~2年余りで退役しているのが実情である。

 

人生100年時代、53歳や57歳で組織から放逐されて少なくともあと30年、どうやってメシを食えというのか。

更にご存知のように、2020年7月には陸幕の募集・援護課が企業から照会があった将官や佐官の経歴や退職時期を人事担当者に渡していたということで、歴代の課長が軒並み処分を食らった事件まで発生している。

そんなもん、ほとんどが公開情報か、容易に推測できる公開情報のようなものであるにも関わらずだ。

機密でもなんでも無く、なんならこの冬に将官のうちどなたが退官になるのか、私でも当てられるくらいの情報であるにも関わらずである(多分・・・)。

つまり幹部自衛官は、若年で組織を放り出される上に、食い扶持は自分で探せという無慈悲で雑な扱いを受けているのである。

 

このような中、2021年度は、定年退職者(幹部・准尉・曹)は年間約4,800人、任期満了の退職者(士)で年間約3,000人、合計で約7,800人の自衛官が退職を迎えようとしている。*1

そしてこのうち、3佐以上の幹部には極めて厳しい防衛省からの「斡旋規制」があり、事実上、自力で再就職先を探さざるを得ないのが、現在の自衛官の再就職事情だ。

利害関係がある会社に対し、不正に利益を誘導させないための法律上の規制である。

 

その上で敢えて暴言を吐くこをとお許し頂きたいが、佐官だろうが将官だろうが、一自衛官レベルで、大きな企業を動かすほどの不正な利益誘導などできるものか。

高級幹部を「ドアオープナー」で迎える人件費のほうが確実に高くつき、コスト倒れになるに決まっている。

確かに、「そうは言っても自衛隊で偉かった人であれば、退役後も組織に顔が利く」という側面はあるだろう。

その結果、100%公平な公金の使われ方が為されないという事態が発生するかも知れない。

しかしもし本当にそんなことが起こり得るなら、それは利害関係がある組織に幹部自衛官が就職することに本質的な問題があるのではない。

その程度の理由で意思決定がなされる防衛省・自衛隊の仕組みに問題があるのである。

幹部自衛官の再就職を締め上げるのではなく、公金の使徒に関する透明性を上げることのほうが、よほど優先順位が高いだろう。

再就職を締め上げるより、現役の意思決定の仕組みをこそ、問うべきだ。

 

さらに言えば、再就職に失敗し食い詰めた元高級幹部が街に溢れかえったらどうなるのか。

自衛官を志す人が減るという長期的な害だけではない。

生きるために背に腹は代えられないと、不本意な意思決定をする人が出てくることが、目に見えているではないか。

そうなれば本当に、国防の危機である。

そのため、自衛隊を応援したいと考える市井の人にはぜひ、以下のことを実践して欲しいと願っている。

 

(1)何よりも再就職の受け入れを

法律を急に変えることはできない。

しかし、一人でも多くの自衛官の力を民間企業で活用することは、決して難しいことではないはずだ。

もちろん、「防衛省に口利きして、受注取ってきてよ」などというクソみたいな役割など求める必要はない。

定年退官まで勤め上げた自衛官であれば、間違いなく優秀な「なにか」を持ち合わせているはずだ。

ぜひ、企業経営者や人事担当者には、一人でも多くの自衛官の再就職先として、その力を活用できないか。

改めて考えて欲しいと願っている。

 

(2)自衛官の再就職制度についてさらに議論を深めて欲しい

自衛隊特有の人事制度である若年定年制という考え方について知っている、自衛隊マニアの人は多いと思う。

繰り返すが、そのことそのものは、やむを得ないだろう。

であれば、その分の失われる利害得失を積極的に埋め合わせる制度を早急に議論し、法制化して欲しいと願っている。

なぜ自衛官(軍人)という、国家でもっともリスペクトされるべき職業に人生を捧げた人たちが、このような形で第二の人生探しに若くして苦労しなければならないのか。

今の法制度について、ぜひ一人でも多くの人に問題意識を持ってもらい、議論を深めて欲しいと願っている。

 

ところでなぜ、私が急にこのようなコラムを書いたのかということについてだ。

実は先日、出先でついていたテレビを見るともなく眺めていたら、「!?」と、ある場面に釘付けになった。

奈良市の危機管理監が奈良県庁を訪れ、「奈良県も緊急事態宣言を発出して欲しい」と、奈良県の担当者に書類を手交するシーンである。

テレビニュースでは淡々と、

「本日、奈良市の危機管理監が奈良県庁を訪れ、申し入れ書を県の担当者に手渡しました」

とだけ、報じていた。ただそれだけだ。

 

しかし、私の目はごまかせないぞ。

マスクをしている横顔で、なおかつスーツを着ていたが実は私には特殊能力がある。

一度でも記事にしたことがある幹部自衛官の顔は、確実に覚えているという特技だ。

お会いしたことがなくても、顔の一部が1秒、テレビに映っていればほぼわかる。

なんなら某雑誌に叩かれた、某陸将補の後ろ姿(髪型)の写真だけを見せられて、当ててしまったこともある。

まあこれは、後ろ姿だけで誰でもわかるお方なのだが。

で、「あ!!國友さん!!」と、すぐにわかったという話だ。

そう、中部方面混成団長兼ねて大津駐屯地司令としてご退役をされた國友昭(第29期)・元陸将補である。

奈良市の危機管理監に再就職され、コロナ禍の中で重い責任を背負っていらっしゃったのだ。

さっそく「奈良市危機管理監 國友」で検索したら、いろんな記事がわんさか出てきた。

ぶっちゃけ毎日新聞の記事など、私の上記の記事のパクリではないかと思わなくもなかったが、まあ國友陸将補の活躍を好意的に報じていたので許してあげたい。

 

國友元陸将補は、東日本大震災発災時に第22普通科連隊長兼ねて多賀城駐屯地司令として指揮を執った、非常にタフな仕事をこなした幹部であった。

隊員の中にも被災者や犠牲者が出てしまった駐屯地の司令として、国民の生命や財産を守るために厳しい選択を求められた人でもある。

そんなことを含めて、東日本大震災における自衛隊の活躍であったと思っている。

そしてその國友さんの再就職はどうなったのだろうと、折につけて思うことがあったのだが、まさか私が住む生駒市の隣の奈良市で、危機管理監に着任されているとは思わなかった。

 

ぶっちゃけ地方自治体の危機管理監といえば幹部自衛官にとって、これ以上はない第二の人生だろう。

本当に心からおめでとうございますとお伝えしたいと願っている。

そして、このような再就職を嬉しく思うと同時に、そのような再就職を果たせる自衛官ばかりではないことも、この場を借りてぜひ、読者の皆様に知ってほしかった。

そんなことで今日、久しぶりにコラムを書かせて頂いた。

どうか、一人でも多くの国民の皆様には、自衛官の再就職という重い課題について、真剣に考えて欲しいと願っている。

暑苦しいコラムになってしまったが、どうぞ許して欲しい。

 

なお余談だが、実は私はこう見えて、本業でも物書きの端くれである。

そして先日、「戦後76年を飾る終戦記念日の記事を1本、寄稿して欲しい」と朝日新聞さんから依頼を受け、書かせて頂いた。

こちらで公開されているのでぜひ、興味があればご一読願いたい。

 

終戦の日に考える「日本はなぜ負けたのか」元陸自幹部の言葉、国民と報道の責任とは

https://globe.asahi.com/article/14417433

 

ご担当頂いたのは朝日新聞globeの副編集長、関根和弘・記者だが正直、朝日新聞さんの印象が少し変わった(笑)

ネット上では当日、「朝日新聞が狂った」「産経新聞かと思った」などと、少しざわつくような内容になっている。

この内容をほぼそのまま、無編集で載せて頂いたことに心から感謝したいと思っている。

この場を借りて、関根記者のご紹介と併せて感謝したい。

ちなみに内容は、田浦正人(第28期)・元北部方面総監の退役式のお言葉を引用しながら、日本人の国防意識に警鐘を鳴らすものだ。

宜しければぜひ、ご一読して欲しい。

 

なお余談ついでで恐縮だが、ほんの数日前の話だ。

上記朝日新聞の記事を読んで下さった自衛隊協力会繋がりの偉い人から、

「そう言えば桃野くん、田浦さんといえば、対談本が出ていたよ。」

と聞かされて驚いた・・・!

amazonで検索したら、本当だった・・・

こちらである。

 

よく考えて、前へ! : 方面隊運用と福島原発対処 戦闘組織に学ぶ

https://www.amazon.co.jp/dp/B09CV4Q5NY

 

しかもアンリミテッド会員なら、無料で読めるではないか・・・

早速読ませていただいたが、本当に現役時代の田浦陸将の立ち居振る舞いがそのまま言語化されているような、何度も鳥肌が立った1冊であった。

ぜひこちらも、ご興味があれば一人でも多くの人に読んで欲しい。

※私には1円も落ちないので、安心してリンクを踏んで購入して欲しい(笑)

 

なお例によって、アイキャッチ画像の美しい女性はコラムとは何の関係もない。

福島駐屯地の第11施設群本部管理中隊で勤務(撮影当時)する、文書陸曹の樋口奈々・3等陸曹だ。

大学卒業後、平成20年に入隊した才色兼備の隊員であり、行政文書の管理や個人情報保護業務に力を尽くしている。

全国の若者諸君!(以下略)

さあ、今すぐ定年退官を気にせず、最寄りの地本まで願書を取りに行こう!

 

・・・最後までお読み頂きましてありがとうございました。

(画像提供:陸上自衛隊東北方面隊公式Webサイト

 

*1 自衛隊京都地方協力本部「就職援護業務」

https://www.mod.go.jp/pco/kyoto/sp/engoka/recruit/taisyoku.html

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8件のコメント

まあ、将官クラスなら再就職は防衛産業であるでしょうが、現場の人間は大変です。
地本の援護に紹介されて就職しても1年持たないでしょう。私の同期などは1年で三度目の転職です。
私は、援護など頼らず、自分で見つけて面接を受け就職しましたが、1年経った今でも勤めています。手取り20万ちょいで充分ですね。

大下様、ご自身で再就職を見つけてご活躍とのこと、大変であったかと思います。
国防に貢献された皆様の第二の人生を、国がしっかりとバックアップできる環境が整うこと、心から期待し、そして微力ながら尽力したいと考えています・・・!

若年定年退職者給付金という制度をご存知でしょうか?
平たく言うと、若年定年してから60歳になるまでの期間分、年収の半額をもらえるという制度です。
私は入隊後はじめての配置でその算定をやっていたからよく知っています。

たとえば、曹から1尉であれば55歳で定年ですから、60歳までは5年間あります。

たとえば退職時の俸給と扶養手当の月額の合計額が42万円だった場合、1260万円です。
公務員の退職手当は定年時にはおよそ俸給の60ヶ月+職域加算数百万円ですから、およそ2400万円程度となります。

つまり、退職してから自衛官が手にすることができるお金は3000万円から4000万円ほどです。

退職金がほぼ出ない中小企業も多いなかでこれだけ金銭給付が手厚いのは自衛官くらいのものでしょう。

ちなみに、若年定年退職者給付金は所得制限があり、退職後の年収が基準を越えると給付金は減額されます。

60ヶ月ではなくて47ヶ月ではないですか?(以前からはかなり削減されてたと思いますが。)

Monotoneさま
詳しい解説ありがとうございました!
感謝申し上げます。
^^

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