読者の皆さんは、陸上自衛隊高等工科学校という名前を聞いたことがあるだろうか。
武山駐屯地(神奈川県横須賀市)に所在する「陸上自衛隊の高校」とも呼ばれる教育機関であり、近い将来の技術陸曹を育成することを目的とする組織だ。
日本全国から、中学校を卒業したばかりの優秀な少年たちを 拉致 選抜し、いわば即戦力の陸上自衛官を育てる高校だが、その存在は正直、余り一般に知られていない。
しかしながら、その卒業生は陸上自衛隊の各部隊から、
「今年も生徒を回して欲しい」
「なぜもっと生徒を育てないのか」
という要望を受け続けるなど、我が国の国防を現場で担い続ける伝統を有する、非常に誇りある組織である。
さらに、一部の卒業生は防衛大学校に進み、あるいは一般大学を卒業して幹部自衛官に任官し、将官まで昇り活躍するものも決して珍しくない。
その例は枚挙に暇はなく、詳しくは後述するが、前・頭号師団長(第1師団長)であり、現・陸上幕僚副長の竹本竜司(第31期)も、少年工科学校第26期の卒業生だ。
なお、少年工科学校とは高校工科学校の前身であり、名前や制度は多少の変化はあるものの、その文化や価値観は今も引き継がれている。
わずか15歳にして国防に人生を捧げることを決意した若者たちが、今も昔も我が国と世界の平和を守り続け、現場のリーダーから陸上幕僚副長までをも排出してしまう凄い高校だ。
今回の記事は、そんな「陸上自衛隊高等工科学校 創立64周年記念行事」に行ってきた際の、現地レポートである。
その2019年度の、陸自高等工科学校64周年記念行事が開催されたのは、9月29日(日)。
管理人(私)は奈良県生駒市在住なので、さすがに横須賀市への当日朝の現地入りは難しく前日入りしたが、天気予報は翌日を「一日雨」と予報。
降水確率も90%と強風も伴う荒天の予報の中で当日を迎えたが、いざ現地に行くとギリギリの天気で雨は上がった。
記念行事が始まる2時間前にはすっかり雨も上がり、むしろ砂埃も立たないまさかのベストコンディションで当日を迎える。
なお武山駐屯地は、第31普通科連隊なども所在するが31普連はコア部隊(予備自衛官主体)であり、常駐のまとまった戦力は存在しない。
そのため、展示すべき装備もわずかであり、この日展示されていた各種兵装も決して多くはない。
最新の武器も、重装備もない。
そもそも武山駐屯地そのものが、交通の便も決して良い場所ではない。
ハッキリ言って、「にわか自衛隊マニア」には、何も楽しくないイベントかも知れないが、だからこそ感じ入ったことが非常に多くあった。
それは後述したい。
いよいよ式典が始まった。
本当に、これが持っている男のツキというものだろうか。
現・高等工科学校長は堀江祐一(第33期相当)・陸将補が務めるが、降水確率90%の中で雨に降られないなど、なかなかのものである。
遠くには、富士山も顔を見せる絶好のコンディションだ。
生徒たちの入場そして堀江の巡閲が始まった。
ご覧の通り、何の派手さもない。
巡閲と言っても、部隊は小銃のみだ。1年生に至っては、携行カバンのみである。
指揮官(堀江)も徒歩であり、全国各地に所在するあらゆる戦闘部隊に比べて、これほど地味で華やかさのない巡閲もないだろう。
少し話が前後して恐縮なのだが、実はこの日、堀江陸将補と親しくお話をするお時間を頂戴できたので、その際に質問をさせて頂いたことがある。
それは、要旨以下のような会話だった。
「校長、巡閲は一般の記念行事のように、車に乗って行われるのではないのですね。徒歩で巡閲されてましたが、どういった意味があるのですか?」
「桃野さん、徒歩で巡閲をするのは当然です。もし仮に、車に乗って巡閲しろと言われても、私は徒歩で巡閲するでしょう。」
「なぜですか?」
「私はあの時、一人ひとり、全ての生徒を文字通り観ています。そしてアイコンタクトで会話をしているんです。
『頑張れ!最後までやり切ろう!』
『しっかり頑張っているな!』
と、生徒たちに目でメッセージを送っているんです。車で通り過ぎてしまったら、全ての生徒たちをとても観られません。だから私は、徒歩で巡閲をするのです。」
実は、堀江自身もここ、高等工科学校(当時は少年工科学校)の卒業生であり、40年前にはここに、生徒側として立っていた一人だった。
だからこそ、指揮官として母校に帰ってきた想いは格別だろう。
もはや、指揮官というよりもオヤジだ。
生徒一人ひとりを想い、厳しく育て、そしてその成長にかける願いと責任感は、並大抵ではない。
そして生徒たちの強さも弱さも、知り尽くしている。
率直に言って、いくら屈強な生徒たちとは言え、まだまだ15~18歳の体が出来きっていない子供である。
そんな厳しくも暖かな指揮官の想いは、本当に特別なものであった。
私はますます、堀江校長とここ、陸上自衛隊高等工科学校という組織と文化が、大好きになった。
そしていよいよ、生徒たちによる観閲行進である。
率直に言って、「歩くだけ」と言っても良いかも知れない。
繰り返しになるが、装備は小銃のみである。
FH-70による空砲射撃もなければ、戦闘の展示もない。
主力戦車によるド派手な演出もない。
しかしこれを、「おもしろくない」と捉えるか。
わずか15歳にして、国防に人生を捧げることを決めた高潔な志を持つ少年たちの「面構え」をしっかりと堪能することができる素晴らしいイベントと捉えるか。
私は圧倒的に、後者であった。
なおかつ、一切のごまかしが効かない「歩くだけ」だからこそ、その準備は難しくあらゆる綻びが圧倒的に目立ってしまう。
今回、その勇ましい行進を動画で撮影する機会に恵まれたので、せっかくなのでyoutubeにアップをさせて頂いた。
ぜひ、ご覧頂ければと思う。
なお、素人による家庭用カメラでの撮影である。
三脚もない。
なので、手ブレ・画質の悪さはどうかご容赦いただきたい・・・
※下記をクリックすると、youtubeの動画に飛びます。ご注意下さい。
なおこれ以外に、ドリル展示や太鼓演奏も動画に収めたのだが・・・
ドリル展示の最中に残り残量が0になるという致命的なミスを犯してしまいました(泣)
そのため、多少中途半端な動画になっていますが、こちらも宜しければ御覧下さい。
2019年度_陸上自衛隊高等工科学校創立64周年記念行事-ドリル展示
2019年度_陸上自衛隊高等工科学校創立64周年記念行事-太鼓演奏その1
2019年度_陸上自衛隊高等工科学校創立64周年記念行事-太鼓演奏その2
そしてこの後は、いよいよお楽しみの祝賀会です!
次ページから、祝賀会場の様子をレポートします!
拝読しました。
桃野さんの自衛隊に対する並々ならぬ愛情に私も感じ入りました。
保護者の一人としてこんなにも学校(生徒)を称賛してくださっていることにも厚く御礼申し上げます。
愚息にも今回のブログを伝えると伴に、一人前の陸上自衛官(≒軍人)となるべき素養を堀江校長以下全教職員の方々やOB,同窓生から学び取り、そして何よりもかけがいのない「同期」と育むよう、更には国民から信頼され国家のために尽力する立派な自衛官となれるよう強く申し伝えます。
来年初、また習志野でお会いしましょう。
緒方さん!
いつもありがとうございます。
はい、ぜひご子息様にもお伝えください。
また、緒方さん、息子さんともお会いできることを、楽しみにしています!
/)`・ω・´)
東奔西走の御活躍大変と思いますが、貴君の御活躍嬉しく思います、高等工科学校の様な地味で大事な事を取り上げていただいて、本当に有難う御座います、貴君のブログは昨年から客観的な見方から自衛隊の内部に入り込む、本当の自衛官の姿にリアルに近づいている感が有りますね、今後は貴君の要望で有った、幹部に限らず 士 曹 幹部 と範囲を広げられる様お願い致します頑張ってね、皆自腹だからね(笑)
あれ?すーさんじゃないですか!
どうしたんですか、お名前が文字化けしてますよ(笑)
はい!
今後とも、士 曹 幹部をぜひ、取材して行ければと思っております。
ぜひ、また駅前で隊員さんを捕まえましょう!(笑)