大場昭彦は宮崎県出身の陸上自衛官。
防衛大学校第38期(機械工学)の卒業で幹候75期、職種は輸送科だ。
平成31年4月(2019年4月) 陸上自衛隊中央輸送隊長兼ねて横浜駐屯地司令・1等陸佐
前職は陸上幕僚監部装備計画部輸送室長であった。
(画像提供:陸上自衛隊第10師団公式Webサイト)
(画像提供:陸上自衛隊中央輸送隊公式Webサイト)
2019年4月現在、我が国の輸送の要・中央輸送隊長を務める大場だ。
中央輸送隊は横浜駐屯地に所在し、陸上自衛隊の物資や装備等の輸送に重い責任を担う。
1等陸佐のポストではあるが、防衛大臣直轄の組織であり、担当地域も全国に及ぶなど、その存在感は非常に大きい。
ではなぜ、その輸送科の役割がそれほどまでに重要になっているのか。
それは2018年3月から実施されている陸自大改革の成否が、この輸送科の能力向上にこそ、大きく関わっているからだ。
ご存知のように陸上自衛隊は、厳しい予算制約の中で野砲や主力戦車を中心に、大きく予算を削減され続けている。
しかしそのような中でも、有事に対応する能力の向上は至上命題であり、作戦能力の低下は全く許されない。
そのような厳しい国民からの要求を、どのようにして両立するのか。
その答えは、戦力の集中と輸送能力の向上にしか求めることができないだろう。
そして実際に、陸上自衛隊は削減された諸部隊を一つの戦力として集中・再編の上で、被輸送力を向上させ、全国のあらゆる場所に即応できる装備と組織に改編を進めている。
すなわち、主力戦車を機動戦闘車に置き換え、野戦特科の一部を迫撃砲部隊に換装した上で普通科と合流。
即応機動連隊として、全く新しい国防体制の構築に体制転換を急いでいるものだ。
そしてこのような仕組みを支える根本となるものこそ、輸送科であり大場が率いる中央輸送隊と言えるだろう。
では、その輸送科が十分に能力を発揮できないと、どういうことになるのか。
その教訓は、未曾有の大震災となったあの東日本大震災の際にも、我が国は思い知ることになった。
あの震災では、記憶に新しい人も多いと思うが、作戦目的地が本州と陸続きであるにもかかわらず、震災直後には物流が完全に止まってしまっている。
幹線道路は各地で寸断され、高速道路もトラフィックが集中するなどして、東北地方の陸路は完全に機能停止。
その結果、陸自各部隊は震災直後に早々と災派の準備を万端整えていたにもかかわらず、思うように現地入りできない部隊も一部に現れた。
ならばと、北海道の一部部隊は船便で現地入りしようとしたのだが、当時、海上自衛隊の第1輸送隊は、3隻保有する大型輸送艦のうち1隻が海外で任務行動中、1隻がメンテナンスでドックに所在しており、残り1隻しか使えなかった。
そしてその1隻は本州からの部隊を現地に輸送する任務にあり、北海道の部隊に対処することができなかった。
そのため、防衛省は緊急時の民間フェリー借り上げ協定を活用し、かろうじて順次輸送力を確保するに至ったが、当然といえば当然だが全ては唐突な出来事だ。
そのため十分な輸送力の調達は困難を極め、結果として、決して順調とは言えない官民協同の作戦行動の事例となってしまっている。
このような教訓を振り返り、当時、陸上幕僚監部の輸送室長にあった源弘紀(第31期)は、
「有事の際を想定した戦力集中には、非常に大きな問題があった」
と述懐し、戦力の転地活用構想に運用が全く追いついていない現実を吐露している。
それもそうだろう。
震災は大規模破壊ではあっても、局所的で一過性のものだ。
しかしこれが戦争であれば、破壊活動は広範囲にわたり反復して行われることになる。
まして我が国が想定する2019年4月現在の国防の危機は、陸続きではない南西方面の島嶼部だ。
陸続きの本州における有事ですら、物流が滞った現実は、輸送科と輸送能力の重要性を見つめ直す良い機会になったと言えだろう。
先にご紹介した源は、陸続きであるはずの東北を「完全な離島作戦だった」と振り返っている。
高い代償を払ったかも知れないが、その経験を活かすことこそが、今を生きる私達国民の責務であり、南西方面の国土を護る上で何よりも重要な教訓となったのではないだろうか。
では、そのような困難な任務に責任を持つとも言える中央輸送隊長に上番した大場とは、これまでどのようなキャリアを歩んできた幹部なのだろうか。
少し詳細に、その経歴を見ていきたい。
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