陸将人事・陸将補人事|2021年3月・陸上自衛隊

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2021年3月、陸上自衛隊陸将・陸将補の人事異動が防衛省から発令された。

当月は、本当に話題てんこ盛りの将官人事になった。

自衛隊関係者のみならず、すでに一般人の間でも大きな話題になっているので、耳にされた人も多いのではないだろうか。

 

一つは、事実上、史上初となる一般大学出身者からの陸上幕僚長の誕生だ。

東京大学出身で、現在、陸上総隊司令官を務める吉田圭秀(第30期相当)である。

いうまでもなく、陸上自衛隊の制服組トップとなる重職だ。

防大出身者が対象とならなかった「空白の80年代」を除き、陸海空を通じた史上初の一般大学出身の幕僚長であり、この人事が持つ意味は極めて大きい。

そしてもう一つが、陸上総隊司令官からの陸上幕僚長昇格である。

これまで、陸上幕僚長は北部・東部・中部・西部のそれぞれ方面総監の中から選ばれるのが陸自の人事の慣例であった(例外的に東北方面総監が1回あり)。

その、長年に渡る慣例がついに崩れたということだ。

2018年から始まった陸自大改革の一環として新設された陸上総隊であったが、名実ともに陸自の中枢として機能し始めているということだろう。

 

なおその延長ではあるが、実は吉田は、陸上幕僚副長、統合幕僚副長、防衛大学校幹事といった要職をいずれも経験していない。

陸自の人事によほど詳しいマニアでないと知らないかも知れないが、実はこれも異例のキャリアだ。

これまで、陸幕長に昇る幹部は、師団長の後職としてそれら役職に就き、その後職として方面総監に昇り、そして陸幕長に昇るのが鉄板ルートであった。

つまり吉田は、あらゆる意味で異例の昇格を果たした新・陸上幕僚長であると言えるだろう。

但し吉田は、陸将補であった平成27年8月から2年間、内閣官房国家安全保障局に出向し、内閣審議官を務めている。

いわゆる日本版NSCと呼ばれる組織で、制服組から政府に対し、もっとも影響力を発揮できるポストの一つである。

そういった意味では、統幕副長や陸幕副長に相当する経験値は十分に積んできたキャリアとも言えるだろう。

 

なお、東大工学部出身ということで吉田を、

「戦う集団のトップとしてふさわしいのか」

「東大出身者に、制服組のトップが務まるのか」

というイメージを持つ人もいるかも知れない。

もしくは、東大出身であるがゆえに、エリートとして温室で育てられた幹部という先入観を持つ人もいるかもしれない。

しかしそんな人には、吉田がどんなキャリアを歩んできたのかを、ぜひ知ってほしい。

吉田の原隊(初任地)は、北海道の留萌である。

数ある初任地の中でも、初級幹部がもっとも恐れる、極めて厳しい自然環境と訓練環境で知られる駐屯地の一つだ。

東大出身の英才をいきなり、陸自屈指の過酷な環境で知られる留萌に放り込んだ当時の人事担当者は、よほど吉田に期待をかけていたのだろう。

この配属は、端的にそのことを表している。

そして若き日の吉田も、その期待に応え成果を出し続けた。

また連隊長ポストも、日露戦争で勇名を馳せ、厳しい雪中行軍で知られる第39普通科連隊で上番した。

温室どころか、もっとも厳しい環境で鍛え続けられてきた幹部の一人である。

 

ちなみに吉田はかつて、北部方面総監の着任記者会見において、Hajimevision代表の小島肇(第19期)・元2等陸佐から

「なぜ、景気の良い時代に東大を出てまで、自衛隊に入隊したのか」

と問われたことがある。

その際に吉田が答えたのは、要旨以下のような内容であった。

私が自衛隊を志したのは、大学3年生の頃でした。

大平内閣の「総合安全保障」を読み、これからの日本にはこのような国防観念が必要なのだと理解したからです。

そして、どうせやるからには現業(現場)でやりたいと考え、(制服組を)選んだ。

正直、不安ではあったが、初任地の留萌では父親のような部下が皆で、「吉田を育ててやろう」と、厳しくも優しく育てて下さった。

こんなにも強い、温かい人間関係がある職場は決して他に無いと、実感しました。

あの経験は、私が長年に亘り自衛官を続けることができた原点です。

ぜひ、若い人には一人でも多く、自衛隊を志して欲しいと願っています。

東大出身であれば、吉田の時代であれば民間の一流企業は引く手あまたであっただろう。

年収や待遇なども、正直自衛隊よりもよほど良かったに違いない。

しかしそんな時代に自ら制服組を選び、高官に昇ってもなお、先輩や組織への感謝の気持ちを述べられる吉田をどう思われるだろうか。

なおかつ、経験してきた現場は、日本屈指の厳しい現場ばかりである。

そんな過酷な現場で叩かれ、揉まれ続け、昇りつめた

「一般大学卒業生として、(事実上)史上初の幕僚長」

であった。

ぜひ、この「東大出身の英才」のそんな一面にも注目し、吉田の活躍と陸上自衛隊を応援して頂ければと思う。

 

とはいえ正直・・・

管理人は次の陸幕長は、ぶっちゃけ前田忠男(第31期)・北部方面総監か、竹本竜司(第31期)・西部方面総監だと予想していた・・・。

時に、「動の前田に静の竹本」とも評される、31期の名将2人である。

そのいずれが陸幕長に昇るのかは今年最大の関心事であったのだが・・・

「管理人デスノート」は、まだまだ健在となってしまった。。

(今回はハッキリと名前を挙げて予想しなかったのに、何でだろう(泣))

 

なお最後に、この場を借りて少し苦言を申し上げたいことがある。

読者の方から頂いた情報ではあるが、今回の陸幕長人事発令前に、元自衛官で現役の国会議員でもある、ある代議士が、吉田・新陸幕長誕生を自身のフェイスブックで公表していたという話を耳にした。

一晩経って翌朝には消されたそうだが、もし本当であれば余りにも軽率に過ぎる。

ただ、私自身は現物を確認できなかったので、正直話の真偽はわからない。

そのため多くを申し上げることはできないが、もし現物を確認していたら全力で、非難の矛先を向けていただろう。

国防の最重要情報を、公表前に、元自衛官である代議士が漏らすという行為は、絶対に許されるようなことではないからだ。

 

現役自衛官であれば、そんなことをすれば間違いなくクビが飛ぶか、厳しい懲戒処分を受けることになる。

何よりも、戦後長年に渡り多くの先輩自衛官の皆さまが積み上げてきた「国民からの信頼」に傷をつける行為であり、現役に迷惑を掛ける背信行為でもある。

どうか、初心を忘れず現役を誰よりも想う代議士として、改めて気を引き締めて欲しいと願っている。

 

なお例によって、アイキャッチ画像の美しい女性は将官人事とは何の関係もない。

北部方面総監部の総務課庶務班で活躍する、阿部千尋(あべちひろ)・3等陸曹である。

現在、北部方面隊で活躍する女性を取材中の映像作家、小島肇(第19期)・元2陸佐から分けて頂いた画像だが、小島が今もっとも、応援する陸曹の一人だ。

職種は通信科で、自衛官である父の勧めもあり平成24年3月に入隊した親子鷹である。

大学生の時に東日本震災で被災し、その時の自衛隊の活躍に心打たれ、父の背中を追ったそうだ。

休日にはスキーを、夏はカフェめぐりを楽しむなど、仕事も趣味も楽しむチャーミングな女性である。

画像は当初、マスク姿のものしか頂けなかったので、無理を言って2枚めも頂いてしまった・・・。

美人さんなんだから仕方がない。

 

全国の若い男性諸君!

今や自衛隊は、どこの部隊に配属になってもこんなに美人で仕事のできる女性が溢れているぞ!(多分)

どこに配属になっても、優秀で美しい女性の同僚や上司がみんなを待っている(はずだ)!

さあ、騙されたと思って今すぐ、最寄りの地本に願書を貰いに行こう!

※なお阿部3曹は剣道3段を誇る剣豪である。ケンカになったら覚悟するように。

 

その他、詳細な人事異動の内容は以下の通り。

※文中、自衛官および関係者各位の敬称略。

(画像提供:小島肇(第19期)・元2陸佐

陸将に昇任させる
(東部方面総監部幕僚長)
陸将補 鬼頭健司

(中部方面総監部幕僚長)
陸将補 中野義久

(第12旅団長)
陸将補 田尻祐介

(自衛隊福岡病院長)
陸将補 松木泰憲

 

統合幕僚学校長を命ずる
(第12旅団長)
陸将 田尻祐介

 

陸上幕僚長を命ずる
(陸上総隊司令官)
陸将 吉田圭秀

 

陸上総隊司令官を命ずる
(北部方面総監)
陸将 前田忠男

 

北部方面総監を命ずる
(統合幕僚学校長)
陸将 沖邑佳彦

 

第6師団長を命ずる
(東部方面総監部幕僚長兼朝霞駐屯地司令)
陸将 鬼頭健司

 

第10師団長を命ずる
(中部方面総監部幕僚長兼伊丹駐屯地司令)
陸将 中野義久

 

富士学校長を命ずる兼ねて富士駐屯地司令を命ずる
(第6師団長)
陸将 蛭川利幸

 

自衛隊中央病院副院長を命ずる兼ねて企画室長を命ずる
(自衛隊福岡病院長兼春日駐屯地司令)
陸将 松木泰憲

 

自衛隊札幌病院長を命ずる
(自衛隊中央病院副院長兼企画室長)
陸将 鈴木智史

 

退職を承認する
(陸上幕僚長)
陸将 湯浅悟郎

(第10師団長)
陸将 鈴木直栄

(富士学校長兼富士駐屯地司令)
陸将 髙田祐一

(自衛隊札幌病院長)
陸将 大鹿芳郎

令和3年3月26日付

https://www.mod.go.jp/j/press/jinji/2021/0312a.pdf

 

 

陸将補に昇任させる
(陸上幕僚監部運用支援・訓練部訓練課長)
1等陸佐 満井英昭

(東部方面総監部防衛部長)
1等陸佐 惠谷昇平

(東部方面後方支援隊長)
1等陸佐 藤丸幸二

(中部方面総監部人事部長)
1等陸佐 豊田龍二

(中部方面総監部防衛部長)
1等陸佐 安田百年

(西部方面総監部防衛部長)
1等陸佐 佐野浩司

(自衛隊中央病院衛生資材部長)
1等陸佐 小原聖勇

 

陸上幕僚監部衛生部長を命ずる兼ねて自衛隊中央病院勤務を命ずる
(自衛隊仙台病院長)
陸将補 森知久

 

陸上幕僚監部監察官を命ずる
(第4師団副師団長兼福岡駐屯地司令)
陸将補 松本英樹

 

陸上総隊司令部運用部長を命ずる
(東部方面総監部幕僚副長)
陸将補 泉英夫

 

北部方面総監部幕僚副長を命ずる
(陸上幕僚監部運用支援・訓練部訓練課長)
陸将補 満井英昭

 

東北方面総監部幕僚副長を命ずる
(中部方面総監部人事部長)
陸将補 豊田龍二

 

東部方面総監部幕僚長を命ずる兼ねて朝霞駐屯地司令を命ずる
(陸上幕僚監部監察官)
陸将補 青木誠

 

東部方面総監部幕僚副長を命ずる
(中部方面総監部防衛部長)
陸将補 安田百年

 

中部方面総監部幕僚長を命ずる兼ねて伊丹駐屯地司令を命ずる
(第11旅団長)
陸将補 酒井秀典

 

中部方面総監部幕僚副長を命ずる
(富士学校特科部長兼諸職種協同センター副センター長)
陸将補 竹内哲也

 

西部方面総監部幕僚副長を命ずる
(教育訓練研究本部研究部長)
陸将補 上野和士

 

第4師団副師団長を命ずる兼ねて福岡駐屯地司令を命ずる
(東部方面総監部防衛部長)
陸将補 惠谷昇平

 

第6師団副師団長を命ずる兼ねて神町駐屯地司令を命ずる
(防衛装備庁プロジェクト管理部プロジェクト管理総括官)
陸将補 叶謙二

 

第10師団副師団長を命ずる兼ねて守山駐屯地司令を命ずる
(西部方面総監部防衛部長)
陸将補 佐野浩司

 

第11旅団長を命ずる
(高射学校長兼下志津駐屯地司令)
陸将補 宮本久德

 

第12旅団長を命ずる
(陸上総隊司令部運用部長)
陸将補 坂本雄一

 

開発実験団長を命ずる
(東部方面後方支援隊長)
陸将補 藤丸幸二

 

警務隊長を命ずる
(東北方面総監部幕僚副長)
陸将補 吉田幸一

 

中央会計隊長を命ずる
(第6師団副師団長兼神町駐屯地司令)
陸将補 山本公威

 

富士学校特科部長を命ずる兼ねて諸職種協同センター副センター長を命ずる
(西部方面総監部幕僚副長)
陸将補 南川信隆

 

高射学校長を命ずる兼ねて下志津駐屯地司令を命ずる
(開発実験団長)
陸将補 江頭豊一

 

航空学校長を命ずる兼ねて明野駐屯地司令を命ずる
(中部方面総監部幕僚副長)
陸将補 安井寛

 

小平学校長を命ずる兼ねて小平駐屯地司令を命ずる
(中央会計隊長)
陸将補 大野真

 

教育訓練研究本部研究部長を命ずる
(北部方面総監部幕僚副長)
陸将補 池田孝一

 

東北補給処長を命ずる
(小平学校長兼小平駐屯地司令)
陸将補 檀上正樹

 

自衛隊札幌病院副院長を命ずる兼ねて企画室長を命ずる
(自衛隊中央病院衛生資材部長兼第4外科)
陸将補 小原聖勇

 

自衛隊仙台病院長を命ずる
(自衛隊札幌病院副院長兼企画室長)
陸将補 菊池勇一

 

自衛隊福岡病院長を命ずる兼ねて春日駐屯地司令を命ずる
(陸上幕僚監部衛生部長兼中央病院)
陸将補 川口雅久

 

防衛装備庁プロジェクト管理部プロジェクト管理総括官を命ずる
(第10師団副師団長兼守山駐屯地司令)
陸将補 大橋智

 

退職を承認する
(警務隊長)
陸将補 梅田将

(航空学校長兼明野駐屯地司令)
陸将補 関口勝則

(東北補給処長)
陸将補 藤井祥一

令和3年3月26日付

https://www.mod.go.jp/j/press/jinji/2021/0312b.pdf

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13件のコメント

お疲れ様です。
なんだか推しが外れるジンクス定着していませんか
1つ言えることは…。以前の人事の常識では考えてはいけないのかな?って事ですね。時代に合わせて通例が変化しているといいますか☆

違います!
私の人事予想を見て、陸幕と内閣が嫌がらせをしているんです!
><;

こうなったら、陸将全員を候補者として予想してやる!!
><

お久しぶりです。

陸上幕僚長、夏の人事で防大30期が一掃されて前田北部方面総監と読んでいましたが、外しましたね。

一方で30期で陸上幕僚長に近いと言われた(?)髙田祐一陸上自衛隊富士学校長が、自衛官生活に別れを告げる。

後任は、富士学校長をじっくりやらせるなら33期の山根第3師団長では?と読んでいましたが外しましたね。

では、また。

昔、施設科さま、コメントありがとうございました!
さすがに、今回の人事をピンポイントで予想できた関係者はなかなかいなかったでしょうね~
本当に、陸幕長人事だけはいつも波乱です(笑)

横から失礼します。
前にも書いたとおり、今回の吉田陸将の陸幕長上番に大変喜んでおりますが、史上初の一般大出身者の陸幕長には、2D長や東方総監を歴任された知将・渡部悦和元陸将に上番していただきたかったです(吉田陸将と同じ東大出身だそうです)。
君塚陸幕長が勇退するとき、次の陸幕長は渡部元陸将ではないかと、勝手ながら期待しておりましたが、当時の岩田北方総監が陸幕長に上番されると聞いたときは、ガッカリしたことを覚えております。それだけに、今回の吉田陸将の陸幕長上番には大変期待しているところです。
末端部隊で勤務している一般大出身の障害者より。

本当に、一般大学卒業生にとっても勇気づけられる陸幕長着任になりましたね・・・!

いやー、本当にまさかの吉田陸幕長誕生ですね。ある意味非常に予想を外しに外した人事だったのかも知れません。今までに多くの一般大学出身幹部の方が、陸自トップまで昇ることなく制服を脱いできましたが・・・今後もこう言った人事があると、上を目指す方々の考えも変わってきて、陸上自衛隊がより良い方向に行ってくれるといいと思います。

マスコミもマニアも、可能性は感じつつもこの人事を言い当てられた人はいないでしょうねえ。
しかし本当に、幕僚長人事だけはすんなり行くことが少ないのはなぜだ
(´・ω・`)

防大組が要職を総嘗めした結果昨今の防衛不祥事に繋がったのかもしれませんね、吉田陸将には是非とも幕僚長まで上り詰め陸上自衛隊を内側から改革していただきたいです。

暑中お見舞い申し上げます。今年はオリンピック、パラリンピックがあるので夏の将官人事はないのですか。それとも1佐の定年延長があったので将官も定年延長とかするんでしょうか。いつも夏は大異動ですよね。パラリンピックが終わったらですか。

人事ウォッチャーさま
コメント頂きましてありがとうございました。
今夏の将官の異動は、私も相当な小規模になると思っています。
陸演、五輪、衆院選と、大きな人事を発令できない/すべきでない条件が固まりすぎてますので。
加えて、仰るように、1佐の定年延長の調整をここで入れてくるかも知れませんね!

夏の人事は本当にないんですね。陸は異例の冬なんですか?
アフガニスタンは頑張っているみたいでお疲れ様です。いろいろ言われますが自衛隊はまじめですから。
ところで、陸上総隊司令官が空挺団で降下訓練したという情報を耳にしました。本当なら初めてですね。中国はびっくりしてるでしょうね。あの人、役人肌でなく本気の軍人ですからね。何か情報あったら教えてください。

前田さんのお話ですか?
前田さんは空挺戦士で、原隊こそ北方ですがすぐに空挺に異動になり、しかも将補時代に空挺団長も務めてますからね。
もちろん総隊司令官として降下したのであれば史上初だと思いますが、余り驚きはありませんでした。
「前田さんらしいなあwww」
といったところです!^^

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