防衛省・自衛隊が宮古島・石垣島にミサイル新基地を設置する本当の目的は、第一列島線に強固な防衛ラインを構築することにある。
なお念のために第1列島線とは何かをご説明すると、中華人民共和国が鄧小平政権の時代、国防の最前線として定義されたとされる戦略構想ラインだ。
具体的には、九州~沖縄~台湾~フィリピンに至るラインを対米戦略の限界線と位置づけるものであり、当然、中国目線でのここから内側は全て中国の表玄関であり、制圧対象だ。
なお中国はこれに留まらず、第2列島線、すなわち伊豆諸島~小笠原諸島~グアム、サイパンを結ぶ諸島の内側までをも自国の影響下に収めることを、中期的な戦略的目標にしているとされる。
つまり、太平洋を米軍と二分するという構想だ。
その上で、こちらの地図を見て頂きたい。
こちらの地図。
我が国の南西諸島のいくつかに、射程250kmは確実と推定される12式地対艦ミサイルを配備した際の、海上防衛範囲を示すものだ。
ご覧頂くと一目瞭然だが、九州~台湾に至る第1列島線北側ルートは、蟻の這い出る隙間もないほどに、完全な海上防衛網が完成する。
なお左端、石垣島には同心円を描いていないので台湾にかぶってないが、見やすさを優先しただけであり、ユニットコストを考えてもこれら部隊の配置には特に問題はない。
中国が第1列島線を突破し、第2列島線までをその支配下に置いて、国防の影響範囲を広げたいと願っているとすればどれほど目障りになるか。
もはや多くの言葉は要らないだろう。
どんな手を使ってでも、宮古島や石垣島への陸上自衛隊新基地建設を阻止しようとしてくるのは明らかだ。
ここにミサイル基地を完成されてしまうと、中国人民解放軍の水上艦艇は太平洋への出口を失うか、控えめに見ても相当なレベルで、行動の自由を制限されることになる。
しかし、新基地建設は日本の国内問題だ。
そこは本当に阻止できるなどと、おそらく中国も考えていないだろう。
するとどういう行動に出るのか、ということだが、こちらの地図を見てもらいたい。
考えられるのは2つだ。
台湾より南に迂回してから太平洋に出るか。
強固な防衛網の存在を承知の上で、九州~沖縄のルートから正面突破で太平洋に出るか。
あるいはその両方である。
そして中国人民解放軍は、当然のことながらそのどちらも進めようとしている。
南側ルートは、南沙諸島に至るまでも中国の領海として支配しようとしている現在の作戦行動を見れば明らかだ。
太平洋からインド洋に至る広い範囲に出るための起点として、南沙諸島を中心に軍事拠点化していることに疑いの余地はない。
一方で、九州~沖縄ルートの正面突破についてだ。
ニュースでよく、「宮古海峡を中国の軍艦が通過」という記事を見ることがあるだろう。
あれはまさに、これである。
なおかつ、先程の画像をもう一度見てもらいたい。
中国の軍艦が太平洋に抜ける進路でよく通るのがこの宮古海峡であり、沖縄本島と宮古島のちょうど中間あたりのポイントだ。
ニュースなどで、「宮古島北北東100数十kmの海上を・・・」などと言ってれば、この黄色い破線の場所と思って頂いて間違いないだろう。
この場所は、地対艦ミサイル部隊の精度が一般にもっとも下がると推測される、沖縄本島と宮古島の両方からもっとも遠い地点にあたる。
なおかつこの場所には、この第1列島線北側ルートでもっとも深くなっている、潜水艦の海中ルートがあると思われる。
一般に明らかになっている海中地図でも、この宮古海峡の一部だけが、やや深く切り立った地形になっているからだ。
そのため、有事などの際に中国人民解放軍が太平洋に抜ける作戦行動に出る際は、必ずここを通る。
自衛隊も先刻承知の上で、その防衛網を考えているだろう。
12式地対艦ミサイルというユニットは、それそのものが強力な兵器というだけではなく、このように、敵性勢力の行動の自由を制限し、その選択肢を極端に削り込む大事な役割を持っている。
こうなれば自衛隊は、限られた海空のユニットをどこに配置すればよいのか。
非常に作戦行動が取りやすくなることが、おわかり頂けるのではないだろうか。
地対艦ミサイル部隊とは、直接的な打撃力というだけでなく、相手の作戦行動を制限するという意味でも、非常に大きな意味を持つ抑止力となる。
そして、これこそが大事なことなのだが、「ダメだ、割に合わない。勝ちが見通せない。」と、敵性勢力に軍事行動を断念させる役割を持つということだ。
専守防衛を国是とする我が国において、これほど望ましい、かつ強力で有効な部隊などそうそうあるものではない。
ぜひ、地対艦ミサイル部隊の役割を理解して頂いたら、その部隊で活躍している隊員さんを見かけた際に、
「いつもお疲れ様です!頑張って下さい!」
と声を掛けてあげて欲しい。きっとすごく、喜んでくれるだろう。
なお最後に、蛇足のようだが実は2005年。
当時の小泉政権は、防衛予算削減の一環としてこの地対艦ミサイル部隊の大幅削減に着手をし、実際に削減するという政治判断を下したことがある。
当時、6つ存在していた地対艦ミサイル連隊を3つまで削減するという、非常に大幅な部隊縮小計画だ。
中期防衛力整備計画2005で明文化された政策であり、これにより宇都宮に所在していた第6地対艦ミサイル連隊は実際に廃止され、その曹士は他の職種に配置換えとなった。
その後、幸いにして地対艦ミサイル部隊の有効性・有用性が極めて短期間のうちに再認識させるに至り、部隊削減方針はすぐに撤回。
2018年現在では、陸自の中で数少ない、装備の更新や人員の拡充に予算がついている部隊となっている。
本サイトは、政治的なメッセージについて発信することを一切目的としていない。
そのため、特定の政治家やその政策について、結果論から批判的な論調をすることも好まないが、唯一つだけ申し上げるとすれば、わかりやすい看板政策に隠れた、致命的な政策にこそ注意をしてほしいということだろうか。
なお、この中期防衛力整備計画2005が編纂された際に、防衛省担当の予算折衝にあたっていた財務省主計局の偉い人は現在、有力な政治家に転身している。
後世から見れば、明らかな誤りであった防衛予算の削減策を主導したと言われても仕方のなかった立場にあった人だが、とても偉い人になっているということだ。
政治のことなので、1タスク1イシューでなにかの判断をすることはないが、ただ何かの判断材料にもなっていない人の方が、世の中では圧倒的なのではないだろうか。
そう思うと、地対艦ミサイルに関する間違った政治判断を容認したのも国民。
間違った政治判断を下した政治家を容認したのも国民である。
その結果責任は最後には、国民自身に、安全保障の危機という形で跳ね返ってくることに、我々国民はもう少し危機感を感じたほうが良いのかも知れない。
(了)
とても参考になりました。
当初の私の認識では、石垣島の自衛隊ミサイル部隊は、北朝鮮ミサイル防衛を主目的と勝手に捉えていました。
石垣島の友人から、この基地新設に関して相談を受けていたので、関連ワードを検索してこちらに訪問しました。
友人の悩みは、やはり「敵勢力の標的に」「住民が犠牲に」といった不安によるものでした。
そして、現地反日メディアを筆頭に、左派による不安を煽る勢力も多いと聞いています。
現地には、偏った情報が蔓延し、正しい判断ができる情報が乏しいのだと思います。
こちらの記事を読み、敵基地への攻撃能力を持たない事、尖閣の防衛に特化している事、敵勢力の行動を制限する戦略的な意味を持つ事など、認識を改める事ができました。
゚.+:。゚.(。・ω・)ノ゙ +:。ありがとう!!
日本大好きっ子さん、コメントありがとうございました。
どんな政策にも賛否両論があっていいと思いますが、そのために大事なことは「正しい情報を持つこと」です。
少なくとも石垣島のミサイル部隊配置については、一部メディアに依る「戦争準備」というような、荒唐無稽な反対意見は全く当を得ていません。
ごく一部の、そのような政治勢力の人達の言うことが本当に正しいのか。
ここに基地を作られたら困る外部の人の的はずれな意見ではないか。
ぜひ、そんなことをしっかりと見極めて、意思を決めて頂ければと思います。
成る程、しかしそれはそれとしても改正前にアセスメントを通さないが為の強引な手段には些か疑問を感じなくもないですね。これでは返って足並みが乱れ、地域住人からの心象も悪く、いざという時の協力的な対応や連携にも亀裂が生じるのではないのでしょうか?