防衛省・自衛隊の沖縄新ミサイル基地建設 本当の目的はどこにあるのか

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さて、たまに聞くことがある表題のような声に応えてみたいと思い、記事にしている。

「航空戦力が中心の時代に、しょっぱい地上部隊を沖縄に配備して何になるのか」

「ちっぽけなミサイル部隊を少し配備しただけで、軍事的に意味があるわけがない」

といったような、その配備に否定的な声だ。

正直、各種SNSでは非常に多く見かける声であるように思う。

 

確かに、今さら沖縄の離島にほんの数百人規模に過ぎない陸上自衛隊のミサイル部隊を配備したところで、防衛上の意味があるようには思えないだろう。

そしてそう思うなら、沖縄の新基地建設も、防衛省の予算確保の口実にすぎないのではないか。きっとそう思われるのではないだろうか。

 

果たしてそれは的を射た指摘なのか。

そんな疑問に答える前に、まずは沖縄新基地の正確な位置関係と配備予定の部隊について、情報を整理してみたい。


(画像提供:グーグルアース)


(画像提供:防衛装備庁公式Webサイト

まず上の写真だが、陸上自衛隊の新基地建設が予定されている宮古島と石垣島を中心にした、200kmと250kmの同心円を描いたものだ。

同じ地図上に、★印で示しているのが尖閣諸島が存在する位置である。国有化以来何かと話題が多い、我が国のホットスポットだ。

下が、我が国が誇る最新式の地対艦ミサイルシステム一式で、ミサイル本体は12式地対艦誘導弾(以降、12式地対艦ミサイルと呼ぶ)である。

文字通り2012年に制式化(採用)されたばかりであり、沖縄新基地にはこの12式地対艦ミサイルの配備が予定されている。

画像を見るからにいかにもショボそうであり、どの程度の戦力になるのか。

全く心許なく思われるのではないだろうか。

 

次にこの、12式地対艦ミサイルの有効射程距離についてだ。

自衛隊の公式発表では、軍事上の機密もあるのだろう。「100数十km」が公式発表の数値となっている。

そしてこの数字は、もし真顔でそんなことを防衛省の担当者が答えたら、思わず吉本新喜劇のノリで、

「んなわけあるかーい!」

と言って、ハリセンで頭を叩いてあげるのが礼儀なのかと勘違いするほどに、すっとぼけた数字である。

というのも、2012年に制式化された12式地対艦ミサイルは、その24年前に導入された88式地対艦誘導弾の後継であり、その有効射程距離は200kmとされているからだ。

2010年代の安全保障環境下において、四半世紀前に導入された装備よりも有効射程距離が劣る地対艦ミサイルを導入します、などど言ったところで、世界中で誰が信じると言うのか。

そして実際には、その有効射程距離は当然のことながら200km以上は確実であり、常識的には極めて高い精度を期待できるのが250km。恐らく300kmまでは十分作戦行動範囲としてあてにできるのではないか、というのが一般的な評価になっている。

 

その上で、もう一度先の画像を見てもらいたい。

宮古島から尖閣諸島までは概ね180kmほどであり、石垣島からは150km程度の距離だ。

従来型の88式地対艦ミサイルでは、宮古島や石垣島に地対艦ミサイル部隊を配備しても、有効射程距離の限界に近く、信頼性が落ちるギリギリの運用範囲となってしまう。

一方で12式地対艦ミサイルは、250kmは十分有効な運用半径を持つことが確実であり、尖閣諸島に何らかの船舶が侵略の意図を持ち近接した場合、完全に射程距離に捉えることになる。

 

なおかつ、画像を見て頂いておわかりだろう。

この地対艦ミサイル部隊は、万が一その弾頭を何らかの強力な武器に換装する技術を隠し持っていたところで、近隣諸国の驚異には全くならない。

大陸にはダブルスコアで届かず、せいぜい石垣島から台湾の東海岸をかすることができるくらいしか、運用半径を持たないからだ。

つまり、国土の防衛以外には全く運用することができない、平和を愛する我が国らしい極めて優れた兵器だと言ってよいだろう。

もちろんこのような武器であり、運用半径なので、「島にミサイル部隊が配備されたら攻撃対象になる」という批判は、説得力を欠くものだと言わざるを得ない。

もしこの位置にある、防御の役にしか立たない武器が攻撃の対象になるのであれば、それは既にその国と交戦状態に入っている時だ。

武器があるから攻撃をされる、という因果ではなく、戦争になったから攻撃をされた、である。

そして戦争になった場合、宮古や石垣はその地政学的な重要性からも、武器の有無にかかわらず確実に一番に、攻撃(占領)の対象になるだろう。

 

もし平時において、この場所に地対艦ミサイル部隊を置くことが「敵からの攻撃の口実になる」と考えるなら、

「どこの国が」「何の目的で」「どのような脅威を口実にして」攻撃をしてくるだろうか。

想像力が足りない管理人には、大変申し訳ないが、その説に素直に耳を傾ける気にはどうしてもなれない。

そしてきっと、その答えを持ち合わせている人などそうそう多くはないだろう。

 

では次に、この12式地対艦ミサイルは本当に役に立つのか。

尖閣の防衛に本当に役に立つのか、ということについてだ。

結論から言うと、石垣と宮古に12式地対艦ミサイル部隊を配備することは、我が国の安全保障環境を根本から変えるほどに、強烈なインパクトを持つ。

 

確かに、一義的には離島を巡る防衛は、航空機同士の戦闘がその勝敗の帰趨を大きく決定づけるかも知れない。

しかしこと尖閣の場合、攻撃側の勝利条件は島嶼の占領だ。

離島の占領には船舶による近接が不可欠だが、12式地対艦ミサイルの存在は、それら船舶の尖閣への接近を許さない。

ならばと、それこそ先制攻撃で宮古や石垣に対地ミサイルを撃ち込んでくることを想定しても、地上ユニットを対地ミサイルで完全に無力化させることなど、まず不可能である。

まして宮古や石垣の場合、陸自の高射特科もセットで配備されるので、対地攻撃に対する防衛準備も抜かりがない。

つまり敵性勢力の目線に立てば、尖閣に近づくこともできず、その防衛根拠地を先制攻撃することも口実を欠き、さらに国際世論を無視して攻撃をしても、無力化することなどまずできないのである。

これほどまでにうっとおしい武器とその運用が、他にあるだろうか。

更にうっとおしいことに、地対艦ミサイル部隊には、戦闘機のように一度の作戦行動で積載可能なミサイルの制限もない。

有事に備え、予算の都合が付く範囲でいくらでもミサイルを在庫することができ、また敵からの攻撃に備え遮蔽の備えを万全にしておけば、無力化されるリスクも極めて低いのである。

周辺海域にいくらでもミサイルを撃ち込み、敵性勢力がその意図を挫くまでミサイルを撃ち続けることができる、などという運用は、その特性上、海空自衛隊には絶対にできない。

ミサイル本体もそうだが、その運用にかかるユニットコストが桁違いだからだ。

陸自のユニットコストは、それほどまでに圧倒的に安い。

 

まずは一義的に、宮古島や石垣島に自衛隊が新基地を建設をすることが、敵性勢力の目線で言えばどれだけ嫌なことか。

十分におわかり頂けたのではないだろうか。

しかし、話はそれだけではない。

防衛省・自衛隊の本当の狙い、石垣島や宮古島に陸自のミサイル部隊を置くことの本当の狙いは、まだ別にある。

それはなにか。

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3件のコメント

とても参考になりました。
当初の私の認識では、石垣島の自衛隊ミサイル部隊は、北朝鮮ミサイル防衛を主目的と勝手に捉えていました。
石垣島の友人から、この基地新設に関して相談を受けていたので、関連ワードを検索してこちらに訪問しました。
友人の悩みは、やはり「敵勢力の標的に」「住民が犠牲に」といった不安によるものでした。
そして、現地反日メディアを筆頭に、左派による不安を煽る勢力も多いと聞いています。
現地には、偏った情報が蔓延し、正しい判断ができる情報が乏しいのだと思います。
こちらの記事を読み、敵基地への攻撃能力を持たない事、尖閣の防衛に特化している事、敵勢力の行動を制限する戦略的な意味を持つ事など、認識を改める事ができました。
゚.+:。゚.(。・ω・)ノ゙ +:。ありがとう!!

日本大好きっ子さん、コメントありがとうございました。
どんな政策にも賛否両論があっていいと思いますが、そのために大事なことは「正しい情報を持つこと」です。
少なくとも石垣島のミサイル部隊配置については、一部メディアに依る「戦争準備」というような、荒唐無稽な反対意見は全く当を得ていません。
ごく一部の、そのような政治勢力の人達の言うことが本当に正しいのか。
ここに基地を作られたら困る外部の人の的はずれな意見ではないか。
ぜひ、そんなことをしっかりと見極めて、意思を決めて頂ければと思います。

成る程、しかしそれはそれとしても改正前にアセスメントを通さないが為の強引な手段には些か疑問を感じなくもないですね。これでは返って足並みが乱れ、地域住人からの心象も悪く、いざという時の協力的な対応や連携にも亀裂が生じるのではないのでしょうか?

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