井上亙(西部方面特科連隊長・1等陸佐)|第38期・陸上自衛隊

井上が陸上自衛隊に入隊しのは平成6年3月。

1等陸佐に昇ったのが25年1月なので、38期1選抜(1番乗り)となるスピード出世だ。

そのキャリアは、離島防衛に最大の抑止力を発揮することが期待されている、地対艦ミサイル部隊と共にあった。


(画像提供:陸上自衛隊第8師団公式Webサイト

ただし、地対艦ミサイル連隊を巡る経緯は複雑だ。

というのも、井上が指揮を執った同部隊の一部、宇都宮に所在していた第6地対艦ミサイル連隊は2018年現在、既に存在していない。

2005年に策定された中期防衛力整備計画において、敢えて刺激的な言い方をさせてもらうならば、国防の役にたたない部隊であると切り捨てられたからだ。

同計画では、当時6つあった地対艦ミサイル連隊を段階的に3つまで縮小することが盛り込まれており、そして2010年、実際に廃止の憂き目を見たのが第6地対艦ミサイル連隊であった。

なお井上が第6地対艦ミサイル連隊で第1中隊長を務めていたのは2004年から2006年のことである。

 

これは決して後知恵ではないと断言できるが、専守防衛を余儀なくされている我が国の安全保障環境を前提にする限りにおいて、地対艦ミサイル部隊の存在は国防上、絶対に欠かすことができない抑止力だ。

なぜ、2005年の段階で、小泉政権下でこのような政治決定がなされたのかは全くわからないが、幸いにもこの誤った政策は、小泉の跡を継いだ第1時安倍政権で直ちに撤回され、地対艦ミサイル連隊の縮小方針は白紙化。

その後、2012年には12式地対艦誘導弾が制式化(採用)され、2018年現在では陸自の中で、数少ない装備と人員の拡充に予算がついている部隊となっている。

いわば、なんとか最小のダメージで済んだという形になっているが、この間に多くのベテラン下士官と陸士が、野戦特科(地対艦ミサイル部隊)から他の部隊に職種替えとなってしまっている。こちらのダメージは、短期間で取り戻そうにも不可能である。

 

当サイトでは、この際に小泉政権が採った明らかに誤った国防政策と、その予算縮小を、当時財務省の主計局で主導したとされる現参議院議員のことについては繰り返し言及しているが、その是非についてはもっと議論が盛り上がるべきでは無いだろうか。

議員本人は当時の決断を様々な形で釈明しており、それには聞くべき部分もあるかもしれないが、ならば結果として誰が地対艦ミサイル部隊の大幅縮小という誤った国防政策を推し進めたのか。

誰が最終決断をし、またその誤った決断はなぜ覆され、そして間違った者はどのような処分をされたのか。

現場で汗を流し、文字通り命がけで訓練に励んでいた同部隊の幹部曹士のためにも、この件は決して軽く考えられるべきではないだろう。

 

そんな時期を経て、井上はいわば地対艦ミサイル部隊を率いる幹部として、改めてその存在感を増しているということだ。

2018年、この記事をポストしている時に開催されているRIMPAC2018においては初めて、米軍が陸上自衛隊と協働し、地対艦ミサイルの発射訓練を行い話題となっている。

今後も、離島防衛のみならず、第1列島線を強力に防衛するという意味において、地対艦ミサイル部隊の重要性はますます高まっていくだろう。

その幹部である井上に対する期待が高まらないはずがない。

一時期”冷や飯”を食わされた分も取り戻す勢いで、この特科連隊で大暴れをしてくれることを期待したい。

 

なお38期組の人事についてだが、最初の陸将補が選抜されるのは2019年夏の将官人事となっていることから、2018年7月の段階では、まだ誰が抜け出すことになるのか。

その見通しは全くついていない。

2018年現在では、従来どおり普通科、機甲科、施設科、高射特科の幹部が出世する人事が目立つが、おそらく野戦特科もこれに加わり、ますます存在感を高めていってくれるだろう。

 

我が国の国防と安全保障には絶対に欠かすことができない井上と野戦特科部隊である。

その活躍には今後も注目し、そして応援していきたい。

 

※文中、自衛官および関係者各位の敬称略。


(画像提供:2枚共に陸上自衛隊第8師団公式Webサイト

◆井上亙(陸上自衛隊)主要経歴

平成
6年3月 陸上自衛隊入隊(第38期)
7年3月 第1空挺団特科大隊第2中隊(習志野)
13年8月 第1空挺団特科大隊第1中隊長(習志野)
14年8月 幹部学校付(目黒)
16年8月 第6地対艦ミサイル連隊第1中隊長(宇都宮)
17年12月 イラク復興業務支援隊
18年8月 第6地対艦ミサイル連隊第1中隊長(宇都宮)
19年3月 陸上幕僚幹部防衛部防衛課(市ヶ谷)
24年3月 第1空挺団特科大隊長(習志野)
25年1月 1等陸佐
25年7月 陸上自衛隊研究本部(朝霞)
26年3月 陸上幕僚幹部防衛部情報通信研究課(市ヶ谷)
28年3月 第8特科連隊長(北熊本)
30年3月 西部方面特科連隊長(北熊本)