その今村が陸上自衛隊に入隊したのは平成2年3月。
1等陸佐に昇ったのは21年1月であったので、34期組1選抜(1番乗り)となるスピード出世だ。
陸将補には31年4月に昇任しているので、10年に渡り1佐として現場で指揮を執った上での、堂々の将官昇任であった。
(画像提供:小島肇様)
職種部隊での活躍の経歴を見ると、原隊は大分県の玖珠駐屯地に所在していた第8戦車大隊。
平成19年には、別海駐屯地に所在する第5偵察隊で隊長に、24年には第72戦車連隊長に上番していることは先述のとおりだ。
スタッフや幕僚のポジションでは、富士学校機甲科部、富士学校主任教官、研究本部研究員、第10師団幕僚長、中部方面総監部防衛部長などの要職を歴任。
また中央(陸上幕僚監部)では、装備部装備計画課、教育訓練部教育訓練課などを経て、班長ポストは人事部人事計画課の制度班長で着任した。
また武官としてはおそらく珍しいのではないだろうか、平成13年には内部部局で防衛制作局にも詰めたキャリアを持っている。
そして31年4月、陸将補に昇任すると我が国で最大の火力と勢力を誇る北部方面総監部の幕僚副長に着任。
極めて重い責任を担いながら、ますますその活躍の場を広げている。
機甲科らしい、非常に充実したキャリアを誇る最高幹部の一人である。
なお余談だが、上記写真1枚目の左側、今村の背後の壁にかかる地図に注目して欲しい。
この地図は、上が南で下が北、すなわちロシアや中国目線から見た、我が国の見え方を示すものだ。
ロシアにとって、あるいは中国にとって、外洋で自由に航行できる海軍を持つためにどれほど日本という国が目障りであるのか。
地図を逆さまに見るだけで、その見え方がよく分かるものとなっている。
当然、敵の指揮官や作戦参謀であれば、どこに橋頭堡を築き、どこを突破口にするのか。
そんな「相手目線」を理解するための地図の掛け方だが、まさに国防の最前線にある北部方面総監部の幕僚副長らしい、執務室を見る思いだ。
では最後に、その今村と同期である34期組の人事の動向について見てみたい。
34期組は、最初の陸将補が選抜されたのが2015年夏の将官人事であった。
そして最初の陸将が選抜されるのが2021年夏の将官人事の予定なので、陸将補が同期の出世頭ということになるが、2019年6月現在でその任に在るのは、以下の幹部たちだ。
荒井正芳(第34期)・自衛隊東京地方協力本部長(2015年8月)
柿野正和(第34期)・陸上幕僚監部監理部長(2015年8月)
小林弘樹(第34期)・統合幕僚監部運用部副部長(2015年8月)
橋爪良友(第34期)・陸上総隊司令部運用部長(2015年8月)
佐藤真(第34期)・第1師団副師団長兼ねて練馬駐屯地司令(2016年3月)
鳥海誠司(第34期)・陸上自衛隊教育訓練研究本部教育部長(2016年7月)
松永康則(第34期)・中部方面総監部幕僚副長(2017年3月)
大場剛(第34期)・第4師団副師団長(2017年8月)
平田隆則(第34期相当)・西部方面総監部幕僚副長(2018年3月)
今村武(第34期)・北部方面総監部幕僚副長(2019年4月)
※肩書はいずれも2019年6月現在。( )は陸将補昇任時期。
以上のように、まずは荒井、柿野、小林、橋爪の4名が頭一つ抜けた状態にあり、第34期の最高幹部人事の中心になって行くことになりそうだ。
今村については、第5偵察隊長に加え、第72戦車連隊長も務めるなど、いま陸自の最高幹部にもっとも必要とされる機動戦闘の知見に長けたエキスパートである。
富士学校などで諸職種協同での戦闘ノウハウを積み上げるか、あるいは西方の最前線で実際に機動戦闘の仕組みづくりを担っていくか。
活躍の場は広く、ますますこれからも重い責任を担っていくことは間違いないであろう。
いずれにせよ、34期組はこの先2020年代半ばにかけて、我が国と世界の平和を中心になって担っていく世代である。
その活躍にはますます注目し、そして応援していきたい。
※文中、自衛官および関係者各位の敬称略。
(画像提供:第72戦車連隊公式Webサイト)
◆今村武(陸上自衛隊) 主要経歴
平成
2年3月 陸上自衛隊入隊(第34期)
3年3月 第8戦車大隊(玖珠)
11年 月 富士学校機甲科部(富士)
13年1月 3等陸佐
13年 月 防衛制作局
15年 月 陸上自衛隊研究本部
16年7月 2等陸佐
16年 月 陸上幕僚監部装備部装備計画課
19年 月 第5偵察隊長(別海)
20年 月 陸上幕僚監部教育訓練部教育訓練課
21年1月 1等陸佐
21年3月 富士学校主任教官
21年8月 幹部学校付
22年8月 陸上自衛隊研究本部研究員
22年12月 陸上幕僚監部人事部人事計画課制度班長
24年12月 第72戦車連隊長(北恵庭)
26年8月 第10師団幕僚長(守山)
28年3月 中部方面総監部防衛部長(伊丹)
31年4月 北部方面総監部幕僚副長(札幌) 陸将補
コメントを残す