池田孝一(いけだ・こういち)|第38期・陸上自衛隊

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その池田が陸上自衛隊に入隊したのは平成6年3月。

1等陸佐に昇ったのが25年1月、陸将補に昇ったのが令和元年8月なので、共に38期組1選抜(1番乗り)のスピード昇任だ。

原隊(初任地)は、帯広に所在する第1対戦車ヘリコプター隊であり、同地で初級幹部として鍛えられ、厳しい自衛官生活のスタートを切った。

(画像提供:防衛省公式Webサイト「福島第1原発での活動」より)

その後、職種部隊では第1ヘリ団の第104飛行隊長、第1ヘリコプター群長など、航空科の幹部としてもっとも名誉あるポストの一つを歴任。

幕僚やスタッフのポジションでは、陸幕の人事部補任課、統幕の運用部運用第1課を経て、中央の班長ポストは陸幕の防衛部防衛課業務計画班長で務めた。

またその間、第1次イラク復興業務支援隊で現地に赴任していることは先述のとおりである。

また陸自の最難関試験であるCGS(指揮幕僚課程)を修了している他、米国陸軍戦略大学の国際協力課程にも留学するなど、エリートらしいキャリアを歩んできていることが印象的だ。

そして情報本部で分析部副部長を務めた後、令和元年8月に陸将補に昇任。

我が国最大の勢力を誇る北部方面隊で幕僚副長を務め、重い責任を担っている。

 

なお、陸上自衛隊で1選抜前期で将官に昇ることは、近い将来の陸上幕僚長候補として選抜されたことを直接意味している。

そういった意味で、池田は今後、もっとも注目を集める最高幹部の一人となることは間違いないだろう。

まさに、38期組のみならず、陸自を代表する最高幹部の一人であり、今後要注目の陸将補だ。

 

ところで上記2枚の写真だが、2011年に発生した東日本大震災で、福島原発に任務に向かう際の第1ヘリコプター団の隊員を直前に撮影したものだ。

特に2枚めは、あの福島原発に放水に向かう隊員を、その直前に撮影したものである。

この際、池田は統幕にあって部隊運用の采配をする立場にあったが、実際に放水に向かったのは、第1ヘリ団で飛行隊長を務めた時の部下であったそうだ。

 

ご存知のように、あのチヌークによる放水は日本国内のみならず世界中に大きな衝撃を与えた。

元北部方面総監の田浦正人(第28期)は、当時福島原発で現地の指揮を執っていたが、

「あの作戦以降、米軍の本気度が明らかに変わった」

と述懐している。

実際に米軍は、チヌークによる放水までは福島原発から距離を置き、一歩離れたところからの支援活動を展開していたに過ぎなかった。

しかしあの作戦以降、米軍は作戦制限区域を解除し、福島原発の消火活動にも直接参加している。

言ってみれば、第一ヘリ団の命がけの作戦が米軍を本気にさせ、

「お前たちは、俺たちのバディだ!」

と認めさせたと言ってよいだろう。

当時、あの作戦がもたらした意義を知らず嘲笑するかのような評価をする”知識人”は多かったが、物知らずにも程があるというものである。

自分たちの国は、自分たちで命を懸けて守る。

その覚悟を形で示したチヌークの放水には、それほどの大きな意味があった。

 

そして、それを見守っていた池田もまた、当たり前だがかつての部下を祈るような思いで見つめていた。

そんな経験からなのか、池田は小島に、

「目の前の任務に全力を尽くす」
「チームワークを大切に」
「家族を大事に」

という価値観を何度も口にしたそうである。

空の戦士として、常に危険と隣り合わせの任務を経験し、またイラクにおいては文字通り命の危険と隣合わせの国際貢献活動をしてきた幹部だ。

極限の環境の中でこそ行き着いた、幹部自衛官としてのスタイルなのだろう。

そういった意味でもまた、陸上自衛隊の幹部らしい、頼もしさと親しみを感じさせてくれる幹部のお一人である。

 

では最後に、その池田と同期である38期組の人事の動向についてみてみたい。

第38期組は、2019年8月に1選抜の陸将補が選抜されたばかりの年次だ。

そしてその最初の将官に昇った幹部は、以下の通りである。

 

岸良知樹(第38期)・東京地方協力本部長(2019年8月)

池田孝一(第38期)・北部方面総監部幕僚副長(2019年8月)

栁裕樹(第38期)・第7師団副師団長兼ねて東千歳駐屯地司令(2019年8月)

浅賀政宏(第38期)・第3施設団長兼ねて南恵庭駐屯地司令(2019年8月)

※肩書はいずれも2020年6月現在。( )は陸将補昇任時期。

 

以上のようになっており、まずはこの4名が、第38期組の1選抜として将官に昇った形だ。

2025年にもあるであろう38期組1選抜陸将人事でも、おそらくこの4名を中心に選抜が進められるのではないだろうか。

 

池田については、これほどまでの実績と活躍を積み上げてきた幹部だ。

戦力の集中と機動力の向上という陸自の新しい戦い方とも相まって、航空科出身の知見がますます重要視されることは疑いようがない。

そういった意味ではいずれ師団長、方面総監といった要職に昇り、より重要な役割を果たして行くことになるのではないだろうか。

いずれにせよ、38期組は今後、2020年代後半にかけて我が国と世界の平和を担っていく、中核となる世代である。

その活躍には今後も注目し、そして応援していきたい。

 

※文中、自衛官および関係者各位の敬称略。

(画像提供:小島肇・元2等陸佐

◆池田孝一(陸上自衛隊) 主要経歴

平成
6年3月 陸上自衛隊入隊
6年10月 第1対戦車ヘリコプター隊
13年8月 幹部学校
16年1月 第1次イラク復興業務支援隊
17年3月 長官官房秘書課
19年3月 陸上幕僚監部人事部補任課
21年3月 第1ヘリ団第1輸送ヘリコプター群第104飛行隊長
22年3月 統合幕僚監部運用部運用第1課
25年1月 1等陸佐
25年6月 米国陸軍戦略大学国際協力課程
26年8月 陸上幕僚監部防衛部防衛課業務計画班長
28年3月 第1ヘリコプター群長
29年3月 統合幕僚監部防衛計画部付(防衛政策局防衛政策課)
30年12月 情報本部分析部副部長

令和
元年8月 北部方面総監部幕僚副長 陸将補

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