その吉田が陸上自衛隊に入隊しのは昭和61年3月。
1等陸佐、陸将補、陸将に昇ったのがそれぞれ平成17年1月、23年8月、29年8月であったので、その全てが30期組1選抜(1番乗り)のスピード昇任であった。
昭和61年といえば、我が国が好景気に沸いていた時代であり、東大工学部を卒業すれば直ちに、魅力的な年収が約束されている大企業に入社できただろう。
そんな時代に吉田は、日本と世界の平和に責任を担う覚悟を持って陸上自衛隊に入隊した、若干22歳にしてそれほどの高潔な志を持った若者であった。
(画像提供:陸上自衛隊北部方面隊公式Webサイト)
(画像提供:陸上自衛隊第8師団公式Webサイト)
そして当時の防衛庁も、この骨のある若者を最大限の敬意で迎え、初任地には北海道の留萌に所在する第26普通科連隊を選ぶ。
第26普通科連隊は、名寄の第3普通科連隊と並び、対ソ連(対ロシア)の最前線として位置づけられている非常に厳しい部隊だ。
東大出の英才に原隊(初任地)としてこの厳しい現場を割り当てるとは、なかなか凄い”歓待”である。
そして吉田はこの歓迎を正面から受けとめ大きく成長をみせると、中隊長ポストを板妻に所在する第34普通科連隊で経験。
連隊長ポストは、こちらも日露戦争で勇名を馳せた東北の最精鋭部隊・弘前の第39普通科連隊で上番した。
その間、中央(陸上幕僚監部)では人事部、装備部、防衛部を経験し、班長ポストは防衛部防衛課の業務計画班長で着任。
課長ポストも防衛部で、超エリートコースにある幹部が着任することが慣例の防衛課長をこなした。
そして平成23年8月に陸将補に昇任すると統合幕僚監部で報道官を務め、西部方面総監部では幕僚副長を。
さらに前述のように、日本版NSCの実務を担うと言ってもよいだろう、国家安全保障局内閣審議官を任され、我が国の国防体制の構築に大きく貢献した。
このような要職での活躍を積み上げてきた吉田であったが、29年8月には陸将に昇任。
3つ桜を両肩に背負うことになり、国防の最前線である第8師団で大きな成果を残すと、その後職として北部方面総監に昇った。
あらゆる意味で全くスキのない、今、陸上自衛隊でもっとも注目をしてほしい最高幹部の一人である。
では最後に、その吉田と同期である30期組の人事の動向についてみておきたい。
30期組は、既に1選抜の陸将が出揃っており、同期の陸上幕僚長候補という意味では絞り込みが終わっている状況だ。
そして2019年11月現在、その候補者たる30期組の陸将にある幹部は、以下の通りになっている。
吉田圭秀(第30期相当)・北部方面総監(普通科出身・2017年8月)
小野塚貴之(第30期)・東部方面総監(施設課出身・2017年8月)
野澤真(第30期)・中部方面総監(野戦特科出身・2017年8月)
髙田祐一(第30期)・富士学校長(普通科出身・2017年8月)
田中重伸(第30期)・教育訓練研究本部長兼ねて目黒駐屯地司令(航空科出身・2017年12月)
大庭秀昭(第30期)・第1師団長(普通科出身・2019年8月)
鈴木直栄(第30期)・第10師団長(野戦特科出身・2019年4月)
※肩書はいずれも2019年11月現在。( )は陸将昇任時期。
以上のようになっており、30期組は髙田、野澤、小野塚、吉田の4名が、極めて近い将来の陸幕長候補と言うことになるだろう。
そしてあるいは、現・陸上幕僚長である湯浅の後を、この4名のうちの誰かが継ぐことになるかも知れない。
吉田については、あるいは「空白の80年代」以降では初となる、一般大学出身者としての陸上幕僚長に昇る可能性も十分考えられるだろう。
陸上総隊の新設と定年延長で、人事のルーティンが大きく変わる端境期のことなので、当面の間、最高幹部人事も予想困難な状況が続きそうだ。
いずれにせよ、2020年代前半にかけて、我が国と世界の平和に大きな責任を担っていくことは確実な吉田である。
その活躍には今後とも注目し、そして応援していきたい。
※文中、自衛官および関係者各位の敬称略。
(画像提供:陸上自衛隊第8師団公式Webサイト)
◆吉田圭秀(陸上自衛隊) 主要経歴
昭和
61年3月 陸上自衛隊入隊(第30期相当)
62年3月 第26普通科連隊(留萌)
平成
2年8月 防衛大学校(小原台)
4年3月 普通科教導連隊(滝ヶ原)
5年8月 幹部学校指揮幕僚課程(39期)(目黒)
7年8月 外務省北米局日米安全保障条約課(霞ヶ関)
9年8月 第34普通科連隊中隊長(板妻)
10年8月 陸上幕僚監部人事部(市ヶ谷)
12年3月 陸上幕僚監部装備部(市ヶ谷)
15年3月 陸上幕僚監部防衛部(市ヶ谷)
17年1月 1等陸佐
17年8月 防衛研究所一般課程(目黒)
18年8月 研究本部(目黒)
19年4月 陸上幕僚監部防衛部防衛課業務計画班長(市ヶ谷)
21年3月 第39普通科連隊長(弘前)
22年3月 陸上幕僚監部防衛部防衛課長(市ヶ谷)
23年8月 陸将補
24年3月 統合幕僚監部報道官(市ヶ谷)
25年8月 西部方面総監部幕僚副長(健軍)
27年8月 内閣官房国家安全保障局内閣審議官(永田町)
29年8月 第8師団長 陸将
令和
元年8月 北部方面総監
HAJIME VISIONさん投稿(YouTube)の吉田総監着任記者会見を拝見したのですが、本当に素敵な方でした。ぜひご覧ください。
はい、既に拝見していますし、HAJIME VISIONさんはよく知っています!
というよりも、私がいつも北海道でお世話になっている、元2等陸佐の小島さんです!
本当に、お人柄が出ていて良い動画ですよね。
教えて下さいましてありがとうございました!
吉田陸将は、今年の4月から第4代陸上総隊司令官を務められていますね。
一般大学出身者ながら、陸上幕僚長に次ぐポストに着任されたことに驚きを覚えます。
過去3代の陸上総隊司令官は皆、防大出身者なので、一般大学出身者としてはなかなかの快挙だと思います。今後、陸幕長へ進む陸将人事の運用体系が変われば、陸上総隊司令官から陸幕長へというルートが出てくると思いますので、陸幕長に次ぐ重要ポストで重責を担う立場として、吉田陸将には今後も大いに活躍して頂きたいと思います。
長文失礼致しました。
記事の更新が追いついておらず失礼しています。
空白の80年代を除く、事実上「史上初」の防大以外からの陸幕長なるか、注目ですね。
横から失礼します。
先程、時事通信の記事で、吉田陸上総隊司令官が陸上幕僚長に上番される記事を読みました。
約34年ぶりに一般大出身者が陸上幕僚長に上番されることに、何だかとても自分のことのように喜び、また、強い励みにもなります。
私自身、空士時代に精神疾患を患い、志半ばで強制除隊となっただけに、未練がとてもあります。
現在は障害者雇用で陸上自衛隊の部隊で勤務しておりますが、とても環境が良いことから、入隊する先を間違えたのではないかと思ったりもします。
何はともあれ、吉田陸将のご活躍を祈ってやみません。
matsuura.shiさま
色々と大変な想いをされたのかと拝察します。
その上でなお、陸自でご活躍されているお志、一国民として心から感謝申し上げます。
これからも頑張ってください!
吉田新陸幕長の上番は、いろいろな意味で陸自の変革を感じさせる出来事になりましたね!
私も一国民の立場で、しっかりと応援してまいりたいと思います!