杉本孝幸(すぎもと・たかゆき)|第29期・海上自衛隊

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杉本孝幸は昭和37年10月生まれ、青森県出身の海上自衛官。

防衛大学校第29期の卒業で幹候36期、出身職種は飛行(固定翼機)だ。

 

平成29年8月(2017年8月) 航空集団司令官・海将

前職は横須賀地方総監部幕僚長であった。

 

2018年2月現在、航空集団司令官を務める杉本だ。

2017年夏の将官人事で横須賀地方総監部幕僚長から栄転し、このタイミングで海将に昇任。

29期組として3番目となる昇任であり、海上自衛隊の航空戦力を束ねる指揮官に着任したことになる。

 

海上自衛隊の航空集団は、戦前の日本海軍でいうところの海軍航空隊だ。

近年、我が国周辺の警戒監視活動だけでなく、国際貢献活動においても海自航空隊の活躍は極めて著しく、このポストを担う最高幹部に対する期待はますます大きくなり続けている。

なおこのポストからは、かつて第8代航空集団司令官であった鮫島博一(海兵66期)が後職として直接、海上幕僚長に着任した事例が1件だけあるが、それ以降はこのような異動はみられない。

とはいえ、海自航空部隊の近年の活躍から考え、航空集団司令官のポストはさらにその扱いが上がってくることは、おそらく間違いないだろう。

 

ちなみにこの航空集団司令官のポストだが、陸空のポストでいうと師団長や航空方面隊司令官と同格の、指定職2号になる。

一つ上、指定職3号になると、海上幕僚副長、航空幕僚副長といった、後職で幕僚長に昇ることが想定できるポストが出始めてくるが、今の扱いであれば、余程のことがない限り後職で海幕長に昇る人事の扱いは復活しない見込みだ。

海自航空隊の存在感が大きくなりつつある今日、あるいは2018年3月に実施の陸自大改革のような組織改編が行われるタイミングで、航空集団はより大きな職責を担う組織になり、その司令官ポストの格上げが図られるのではないだろうか。

海自の航空部隊にはそれだけの力があり、そしてそれにふさわしい成果を挙げ続けている。

我が国の平和と安全に対する貢献、さらには世界平和に対する貢献と言ったことを考えても、海自航空集団の評価はおそらく、次の変革期にも見直されることになるだろう。

 

 

さて次に、その杉本のこれまでのキャリア、同期の動向などについても見てみたい。

海自地方隊で最大の規模を誇る横須賀地方総監部で幕僚長を務めるなど、極めて充実したキャリアを誇る杉本であり、その職歴はどれも印象深いものだが、敢えて一つを挙げるとすれば、それは第1航空群司令のポストであろうか。

 

第1航空群は鹿児島県の鹿屋航空基地に所在するが、錦江湾(鹿児島湾)に面しているこの基地は、日本海軍の栄光と壊滅を全て目撃してきたと言って良い、歴史の生き証人だ。

太平洋戦争開戦に際しては、真珠湾と錦江湾の形が似ていることから、この地で繰り返し海軍の大先輩たちが、真珠湾奇襲攻撃に備え対艦攻撃の猛訓練を積んだ。

もちろん鹿屋基地は、当時から海軍の基地として機能しており、山本五十六・連合艦隊司令長官の命を受けた大西瀧治郎参謀長(第11航空艦隊)と源田実参謀(第1航空艦隊)がここ、鹿屋の地で実際の作戦計画を立案したと伝えられている。

 

なお、その大西と源田が真珠湾攻撃の極秘作戦の立案を行った会議は「鹿屋会談」と呼ばれるが、その際に使われた基地公室は、実は2013年まで現存していた。

しかしながら、耐震性に問題があったことから取り壊しが決定されてしまい、海軍関係者や海自ヲタには随分と惜しまれながら、明治建造のその貴重な歴史的建造物は、瓦礫に帰した。

 

なお、取り壊しが決まった際の第1航空群司令はちょうど杉本であったのだが、庁舎の取り壊しに際し、

「建物自体の保存はかなわないが、旧海軍時代から続く歴史と伝統はしっかりと受け継いでいきたい」

と、読売新聞の取材に対して語り、実際に鹿屋会談が行われた公室の壁と天井の一部を保存し、新庁舎に移すことが決まった。

歴史と伝統を重んじる海自らしい、一つの”いい話”である。

 

このようなキャリアを経て海将まで昇った杉本だが、その昇任歴と同期の動向についても見てみたい。

杉本が海上自衛隊に入隊したのは昭和60年3月。

1等海佐に昇ったのが平成16年1月なので、29期組1選抜のスピード出世だ。

海将補に昇ったのは平成23年8月であり、こちらは同期1選抜の1年遅れ、海将に昇ったのも29年8月なので同様に1選抜1年遅れだが、そもそも海空自衛隊は将補、増して将に昇るものは極めて少ない。

そのため陸自のように、1選抜で将官に昇ることが必ずしも同期の幕僚長候補になることを意味しておらず、1年遅れの将補・将への昇任であれば、近い将来の海上幕僚長として名前が上がっていると言っても良いだろう。

それ程までに、超が付くスーパーエリートである。

 

なお2018年2月現在で、29期組で海将にあるものは以下のとおりだ。

 

渡邊剛次郎(第29期)・教育航空集団司令官(2016年7月)

糟井裕之(第29期)・護衛艦隊司令官(2016年12月)

杉本孝幸(第29期)・航空集団司令官(2017年8月)

大島孝二(第29期)・海上自衛隊補給本部長(2017年12月)

中尾剛久(第29期)・舞鶴地方総監(2017年12月)

※肩書はいずれも2018年2月現在。( )は海将昇任時期。

 

以上のような状況になっており、渡邉、糟井、杉本の3名までが、おそらく極めて近い将来の海上幕僚長候補として、名前が検討されたことがあり、そして今なお検討されていることだろう。

2018年現在の海上幕僚長は村川豊(第25期)であり、その任期はおそらく2018年12月前後まで。

その後任にはほぼ間違いなく、山下万喜(第27期)が着任することになるはずだ。

29期組はその後任、不祥事などに依る人事上の波乱がなければ、2020年冬から2021年春頃にかけての海幕長人事で、あるいは頂点の椅子に座るものが選ばれる候補の世代になるだろう。

そして杉本も、あるいは今後の活躍によっては、この際に名前が呼ばれることになるかもしれない。

 

いずれにせよ、29期組は現在進行形で我が国の平和と安全を守る最高レベルの意志決定を担っている世代だ。

その活躍には要注目であり、今後とも目を離さず、そして応援していきたい。

 

本記事は当初2017年7月21日に公開していたが、加筆修正が重なったので2018年2月27日に整理し、改めて公開した。

 

◆杉本孝幸(海上自衛隊) 主要経歴
昭和
60年3月 海上自衛隊入隊(第29期)

平成
8年1月 3等海佐
11年7月 2等海佐
12年3月 第2航空群第2航空隊
12年8月 第2航空群第2航空隊飛行隊長
14年3月 海上幕僚監部補任課
16年1月 1等海佐
17年8月 海上幕僚監部補任課補任班長
18年8月 海上幕僚監部防衛課編成班長
20年3月 第5航空隊司令
21年8月 統合幕僚監部防衛計画部防衛課長
23年8月 航空集団司令部幕僚長 海将補
24年7月 第1航空群司令
25年8月 防衛監察本部監察官
26年12月 海上自衛隊幹部候補生学校長
28年3月 横須賀地方総監部幕僚長
29年8月 航空集団司令官 海将

 

【注記】

このページに使用している画像の一部及び主要経歴は、防衛省のルールに従い、防衛省のHPから引用。

主要経歴については、将補以上の階級のものにあっては防衛年鑑あるいは自衛隊年鑑も参照。

自衛官各位の敬称略。

※画像はそれぞれ、軽量化やサイズ調整などを目的に加工して用いているものがある。

【引用元】

防衛省海上自衛隊 横須賀地方隊公式Webサイト(幕僚長着任式)

http://www.mod.go.jp/msdf/yokosuka/news/27/52.html

防衛省海上自衛隊 八戸航空基地公式Webサイト(功労者表彰式写真2017年10月5日)

http://www.mod.go.jp/msdf/hatinohe/news.html

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