その平栗が陸上自衛隊に入隊したのは昭和60年3月。
原隊(初任地)は青森県の八戸駐屯地に所在する第9施設大隊であり、この歴史と伝統ある青森の地で、初級幹部として自衛官生活のスタートを切った。
1等陸佐に昇ったのは平成16年7月であったので、1選抜後期(1番手グループ)での昇任となる、スピード出世であった。
(画像提供:陸上自衛隊古河駐屯地公式Webサイト)
その後、小隊長及び中隊長ポストは、福島県の福島駐屯地に所在する第11施設群で経験。
大隊長は山形県の神町駐屯地に所在する第6施設大隊で、さらに神奈川県の座間駐屯地に所在する第4施設群でも、群長に上番した。
その間、中央(陸幕)では教育訓練部教育課、装備部施設課建設班長、装備部施設課長などの要職を歴任し、また防衛大学校では、防衛学教育学群統率・戦史教育室長を務めるなど意外な領域でも活躍。
そして平成28年3月、陸将補に昇任し第1施設団長兼古河駐屯地司令に着任し、活躍を続けている。
非常に幅広い現場経験に強みを持つ、とても頼もしい最高幹部の一人だと言ってよいだろう。
ところでその平栗には、忘れられない災派(災害派遣)がある。
東日本大震災だ。
あの未曾有の大震災では、施設科のエキスパートである平栗をしても、被災地入りした時に目にした光景は想像を絶するものであったという。
平栗はそれまで、「ほとんどの災害は自衛隊で対応可能」と考えていたというが、津波という圧倒的な自然の力がもたらした瓦礫の量は桁違いであり、瓦礫を剥がさないと人命救助を行えない事態に初めて自衛隊の限界を感じたと、当時を振り返る。
その為この教訓として、大規模災害にあっては民間と協調し、自衛隊と民間が一体となって、瓦礫撤去などのため機械力を集中できる仕組みを作り上げ、導入することを提案している。
あの大規模災害において、現地で指導にあたった指揮官の教訓は非常に大きい。
その実現に向けた道筋づくりもまた、平栗が自衛官として取り組みたい大きな仕事の一つだ。
では最後に、その平栗と同期である29期組の人事の動向について見てみたい。
29期組の将官は、一部で既に勇退も始まっている年次であり、今まさに、我が国の平和と安全に最も重い責任を担っている世代だ。
そして2018年12月現在で、29期組で陸将に在るのは以下の最高幹部となっている。
上尾秀樹(第29期)・東北方面総監(2016年7月)
高田克樹(第29期)・東部方面総監(2016年7月)
本松敬史(第29期)・統合幕僚副長(2016年7月)
納富 中(第29期)・防衛大学校幹事(2016年7月)
柴田昭市(第29期)・防衛装備庁長官官房装備官(2017年3月)
山内大輔(第29期)・陸上自衛隊補給統制本部長兼ねて十条駐屯地司令(2017年3月)
清田安志(第29期)・第6師団長(2017年8月)
岩村公史(第29期)・第9師団長(2018年8月)
権藤三千蔵(第29期)・陸上自衛隊関東補給処長兼ねて霞ヶ浦駐屯地司令(2018年8月)
※肩書はいずれも2018年12月現在。( )は陸将昇任時期。
以上のようになっており、あくまでも2018年12月現在での状況だが、29期組からは上尾と高田の2名が先に方面総監に着任し、一歩抜け出した形になっている。
ただ、本松と納富もまだまだ、方面総監に着任する可能性があり、またそうなると陸上総隊司令官に着任する可能性もあるなど、この4名はほとんど差がないと考えてよいだろう。
上尾、高田、本松、納富が横一線という状況で、それぞれが重い責任を果たしている。
平栗については、現職の第1施設団長に着任して、2018年12月で既に2年9ヶ月が経過している。
そのため12月か、あるいは遅くとも2019年3月までにはこのポストから異動になることは確実だが、あるいは29期という年齢を考えると、現職が最後のポストになるのかも知れない。
非常に寂しいことだが、これほどの経験と知見を積み上げた将官でも、いつか制服を置く時が来るということだ。
それが間もなくなのか、あるいはもう少し先なのかはわからないが、恐らくそう遠くない未来になるだろう。
だからこそ、平栗の動向にはより一層注目し、その活躍を追い続けていきたい。
そして声を大にして、応援していきたい。
※文中、自衛官および関係者各位の敬称略。
(画像提供:陸上自衛隊東部方面隊公式Webサイト)
◆平栗浩一(陸上自衛隊) 主要経歴
昭和
60年3月 陸上自衛隊入隊(第29期)
61年3月 第9施設大隊
平成
1年3月 防衛大学校訓練部指導教官
3年3月 第11施設群小隊長
5年3月 第11施設群中隊長
5年5月 第1次モザンビーク派遣輸送調整中隊
5年12月 第331施設中隊長
6年8月 陸上自衛隊幹部学校付
8年1月 3等陸佐
8年8月 第2施設団本部
10年3月 檜町駐屯地業務隊付
11年3月 陸上幕僚監部教育訓練部教育課
11年7月 2等陸佐
14年3月 第6施設大隊長
16年3月 陸上自衛隊幹部学校付
16年7月 1等陸佐
17年4月 第2師団司令部第3部長
19年3月 陸上幕僚監部装備部施設課建設班長
21年4月 第4施設群長
22年8月 陸上幕僚監部装備部施設課長
24年8月 東北方面総監部装備部長
26年12月 防衛大学校防衛学教育学群統率・戦史教育室長
28年3月 第1施設団長兼古河駐屯地司令 陸将補
30年12月 第1施設団長兼古河駐屯地司令のポストを最後に勇退
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