その大森が陸上自衛隊に入隊したのは、昭和59年3月。
1等陸佐に昇ったのが平成15年1月であり、28期組1選抜(1番乗り)を果たした、スピード出世であった。
その原隊(初任地)は、仙台の霞目駐屯地に所在する東北方面輸送隊であり、この地で初級幹部としての見識を積み上げた。
(画像提供:陸上自衛隊島松駐屯地公式Webサイト)
その後、職種部隊での指揮官職では、福岡に所在する第4後方支援連隊輸送隊長、旭川に所在する第2後方支援連隊長、京都の桂に所在する中部方面後方支援隊で隊長職、輸送学校長などの要職を歴任。
中央では、防衛部運用課や装備計画課の輸送室長、更には統合幕僚監部の首席後方補給官付後方補給官をつとめるなど、あらゆる後方支援系のポストで指揮を執った。
そして職種部隊の枠を超え、陸将補に昇任後は第4師団副師団長兼ねて福岡駐屯地司令、東北方面総監部幕僚副長などの要職を歴任し、2017年3月から北海道補給処長兼ねて島松駐屯地司令を務めている。
我が国の兵站を守る、日本の防衛に欠かすことのできない最高幹部であると言ってよいだろう。
なお、先述の陸自大改革の話だ。
なぜ今、輸送科であり後方支援系の役割が大きくなっているのか。
それは2018年3月に行われた陸自大改革が、陸自の軽武装・高機動力化を推し進め、あらゆる有事の初期対応能力を向上させることを主眼としているからだ。
21世紀の国防の状況を考えると、専守防衛である我が国は本土で敵を迎え撃たざるを得ない。
しかし海に囲まれている我が国の国情を考えると、主力戦車を始めとした正面戦力の直接上陸を許し、ロシアや中国人民解放軍の主力部隊と、正面から殴り合う戦局というものは想定が難しい。
むしろ、小規模部隊による破壊工作や、軽武装の特殊部隊を相手にした防衛戦のほうが、生起する可能性としては高いだろう。
そのような想定で、各地の普通科連隊をコアに再編を進めた結果生まれたのが、諸職種協働の即応機動連隊だ。
軽武装と言うよりも、中武装で高機動力の、我が国らしい部隊編成と言えるかも知れない。
上陸戦を挑み我が国に近接を図る敵性勢力程度の規模であれば、一蹴できる戦闘力を備える。
しかしもちろん、有事の想定はそれだけでは済まない。
場合によっては、敵性勢力の大規模火力の揚陸を許す局面も想定しなければならないだろう。
その一方で、我が国は厳しい防衛予算の運営の結果、野戦特科を中心に大規模な部隊の削減が続く。
このような状況にあって、有事に備える唯一の方策と言えば、戦力の集中と機動力の向上しか、解決策がない。
さらにわかりやすく言えば、九州や沖縄方面で発生した局地戦に、北海道に集中する大規模火力や主力戦車をどれだけ速やかに、どれだけ確実に輸送することができるか。
兵站の問題を含めて、2018年の陸自大改革が「絵に書いた餅」とならないためには、この大森率いる輸送科と後方支援系職種がどれだけの働きをみせるのか。
全てはそれにかかっていると言えるだろう。
我が国の新しい安全保障体制を担う、非常に重い責任を担っている、そんな部隊を指揮する大森である。
では最後に、その大森と同期である28期組の人事の動向をご紹介しておきたい。
28期組はおそらく、2019年夏の将官人事で陸上幕僚長が選抜されるであろう年次にあたる。
そしてその候補者たる陸将にある幹部は、2018年11月現在で以下のようになっている。
住田和明(第28期)・陸上総隊司令官 高射特科出身
田浦正人(第28期)・北部方面総監 機甲科出身
岸川公彦(第28期)・中部方面総監 施設科出身
湯浅悟郎(第28期)・西部方面総監 普通科出身
岩谷要(第28期)・陸上自衛隊研究本部長 施設科出身
藤田浩和(第28期)・陸上総隊幕僚長 高射特科出身
甲斐芳樹(第28期)・第10師団長 普通科出身
※肩書はいずれも2018年11月現在。
以上、7名の陸将がそれぞれのポストで重い責任を担うが、実質的にその候補者となるのは住田、田浦、岸川、湯浅の4名となるだろう。
その人事予想については別にコラムを立てて、書いてみたい。
大森については、28期の人事の状況を考えると、おそらくこの北海道補給処長兼ねて島松駐屯地司令のポストが、最後の大仕事になるだろう。
どれだけ実績があり、また活躍した自衛官であっても、やがて退役の時が来るという事実を思うと、本当に寂しく思う。
だからこそ、その最後の大仕事にこそ注目し、エールを送りたいと願っている。
後方支援系で、余り目立つことのなかった大森の自衛官生活は、我が国に対する大いなる貢献で溢れている。
ぜひその事実を一人でも多くの人に知ってもらい、そして最後の応援をしてもらいたいと願っている。
※文中、自衛官および関係者各位の敬称略。
(画像提供:陸上自衛隊島松駐屯地公式Webサイト)
◆大森丈義(陸上自衛隊) 主要経歴
昭和
59年3月 陸上自衛隊入隊(第28期)
60年3月 東北方面輸送隊(霞目)
平成
2年3月 輸送学校教育部(朝霞)
4年8月 幹部学校#38指揮幕僚課程(市ヶ谷)
6年8月 防衛庁長官官房広報課(檜町)
7年1月 3等陸佐
8年8月 陸上幕僚監部人事部補任課(檜町)
10年7月 2等陸佐
10年8月 第4後方支援連隊輸送隊長(福岡)
12年8月 陸上幕僚監部防衛部運用課(市ヶ谷)
15年1月 1等陸佐
15年8月 防衛研究所#51一般課程学生(目黒)
16年8月 総務省消防庁国民保護運用室長(出向)(霞ヶ関)
18年8月 陸上幕僚監部装備部装備計画課輸送室長(市ヶ谷)
20年8月 第2後方支援連隊長(旭川)
21年7月 統合幕僚監部首席後方補給官付後方補給官(市ヶ谷)
22年12月 中部方面後方支援隊長兼ねて桂駐屯地司令(桂)
24年8月 第4師団副師団長兼ねて福岡駐屯地司令(福岡) 陸将補
26年3月 東北方面総監部幕僚副長(防衛)(仙台)
26年8月 東北方面総監部幕僚副長(行政)(仙台)
27年3月 輸送学校長(朝霞)
29年3月 北海道補給処長兼ねて島松駐屯地司令(島松)
31年4月 北海道補給処長兼ねて島松駐屯地司令のポストを最後に退役
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