海将人事・海将補人事|2020年3月・海上自衛隊

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2020年3月、海上自衛隊の海将・海将補の人事異動が防衛省から発令された。

 

今回の定期異動で、新たに昇任した海将は1名。

そして新旧交代で、1名の海将が長きにわたる自衛官人生に別れを告げて、制服を置いている。

同様に、新たに将官に昇任した海将補は4名で、制服をおいた将補は3名であった。

昇任をされ、さらに重い責任を担うことになった皆様には心からのお祝いを申し上げるとともに、退役をされた4名の将官の皆様には、心からの感謝の言葉をお伝えしたいと思う。

本当に、お疲れ様でした。

ありがとうございました。

 

それぞれ内容を見ていくと、退役された海将は高島辰彦(第28期相当)・潜水艦隊司令官。

ご存知のように京大出身の英才で、「なつしお」艦長をはじめ、サブマリナーとして多くの指揮官ポストを経験した。

京大出身でありながら、自衛隊で最も過酷な職種の一つと言われる潜水艦での任務を選び、そして通常型潜水艦としては世界最強とも評される我が国の潜水艦隊の発展に非常な尽力をされた。

その最後の補職は、サブマリナーの退役のポストとしてこれ以上はない名誉である、潜水艦隊司令官であった。

すでに3月18日付で制服を置かれた後ではあるが、どうか1人でも多くの国民には、この髙島という男の活躍を知ってほしいと願っている。

 

また海将補人事で目を引くのは、やはり34期の海上幕僚長候補の1人にして、「ナニワのイケイケ兄ちゃん」と親しまれる福田達也(第34期)の、掃海隊群司令への着任だろうか。

なお、私(管理人)個人は、正直にいって福田とは面識すら無い。

一方で、福田の知人(自衛隊を応援する組織の会員や幹部などの民間人)を多く知っているが福田は、誰からも好かれるおかしな魅力があるようだ。

まあ、フィリピンのドゥテルテ大統領のエスコート役を任されるくらいだから、きっと似た者同士なのかも知れない。。

 

そして、この人事の意味するものについても、少しお話しておきたい。

掃海隊といえば、詳細は端折るが我が国が誇る精鋭部隊であり、戦後の混乱期にも様々な形で活躍した戦力と言って良いだろう。

その能力、練度、士気、勇気は今も世界最高レベルの精鋭部隊であって、変わらず我が国と世界の平和と安全のために尽力し続けている。

しかしながら、最高幹部の人事としてはかつて、その司令官たる掃海隊群司令は「左遷ポスト」扱いをされていた時代があったようだ。

実際に、自衛隊のラスボスとして長年君臨してきた前統合幕僚長・河野克俊(第21期)が平成20年当時、掃海隊群司令に異動になった際には、本流から外れたと分析する評価を多く見かけた。

記憶が定かではないが、「左遷人事」とまで書いていたメディアまであったように記憶している。

確かに、河野は当時、8ヶ月余りで掃海隊群司令を務め上げ、護衛艦隊司令官として本流に戻っているので、あるいは何らかの理由で「左遷」をされたのかも知れない。

正直、その辺りのことはよくわからない。

 

しかしながら、時代は流れ令和の今。

掃海隊群司令は左遷ポストどころか、「我が国の命運を担うエリート中のエリートの指定ポスト」になっている。

だからこそ福田が着任したとも言えるが、ではなぜ「海の掃除屋」たる掃海隊群司令ポストが、そこまでエリートのポストになったのか。

自衛隊マニアには常識だが、一般人では全く知らないであろう海自の組織改編を少し説明すると、実は2016年7月、掃海隊群はその隷下に、第1輸送隊を組み入れた。

そして第1輸送隊は、その隷下に「おおすみ」「しもきた」「くにさき」の、各大型輸送艦をおさめている。

それぞれ2艇ずつ、計6艇のLCAC(エアクッション艇)も備えており、有事の際には主力戦車の海上輸送も可能な、文字通り我が国の生命線とも言える戦力である。

 

もはやおわかり頂けたかと思うが、2016年以降、掃海隊群には

・航路の啓開

という従来の任務に加えて、

・陸自と協働し、殴り込み部隊を輸送・指揮する

役割が与えられたということである。

 

言うまでもなく、現在、我が国が直面する現実的な驚異は南西方面の島嶼部にある。

なおかつ我が国は、その是非はともかくとして専守防衛の戦闘を強いられていることから、どうしても戦闘初期において、「敵性勢力による、我が国領土(島嶼部)の占領」を許さざるを得ない。

そして領土への侵略と占領を既成事実化される段階で、周辺は機雷を含めて、あらゆる手段で封鎖されるだろう。

その時に、島嶼部に実際の戦力を送り込める水先案内人になれるのは、掃海隊群しかいない。

だからこそ、「海の掃除屋」たる掃海隊群の隷下に、まとまった戦力を輸送できる第1輸送隊が編入された。

これが今、海上自衛隊のトップエリートが掃海隊群司令に着任する人事の流れになった、大きな理由だ。

そのため今回、34期組のトップエリートである福田がこのポストに就いたことを、とても注目している。

 

このポストで福田がどれだけの活躍を見せてくれるのか。

5年後の海上自衛隊の最高幹部人事を占う上でも、要注目の1年になりそうである。

ちなみに、2016年に掃海隊群の役割が明らかに変わって以降、掃海隊群司令に着任したのは3名。

自衛隊一、笑顔がステキ(管理人調べ)な最高幹部で、現・護衛艦隊司令官の湯浅秀樹(第30期)

福田の前任にして、次の異動で海将に昇任することは確実な白根勉(第32期)・佐世保地方総監部幕僚長。

そして、福田である。

掃海隊群司令ポストは、海上幕僚長候補の指定ポストとなったと言ってもよいだろう。

そういった意味でもぜひ、今後も注目して欲しいポストの一つだ。

 

なお例によって、アイキャッチ画像の美しい女性は人事異動とは何の関係もない。

第53期一般幹部候補生課程(部内課程)を卒業した幹部候補生たちが、1ヶ月に及ぶ外洋練習航海を終え、呉に帰港した際の記念行事を撮影したものだ。

しかし想像するに、福田のようなイケイケ兄ちゃんは、候補生や新米3尉の頃からロクでもないやんちゃ坊主では無かったのだろうか。。

海上自衛隊も、型破りな指揮官を最高幹部に引き上げると言う意味で、少し組織文化が変わってきているのかも知れない。

 

その他、異動の詳細な内容は以下の通り。

※文中、自衛官および関係者各位の敬称略。

(画像提供:海上自衛隊公式Webサイト

海将に昇任させる
(佐世保地方総監部幕僚長)
海将補 小座間善隆

 

潜水艦隊司令官を命ずる
(佐世保地方総監部幕僚長)
海将 小座間善隆

 

退職を承認する
(潜水艦隊司令官)
海将 髙島辰彦

 

海将補に昇任させる
(各通)
(防衛研究所教育部長)
1等海佐 保科俊朗

(統合幕僚監部指揮通信システム部指揮通信システム企画課長)
1等海佐 吉岡猛

(海上幕僚監部人事教育部人事計画課長)
1等海佐 小牟田秀覚

(海上幕僚監部人事教育部教育課長)
1等海佐 降旗琢丸

 

防衛大学校訓練部長を命ずる
(防衛研究所教育部長)
海将補 保科俊朗

 

統合幕僚監部防衛計画部副部長を命ずる
(第1護衛隊群司令)
海将補 江川宏

 

統合幕僚監部首席後方補給官を命ずる
(防衛大学校訓練部長)
海将補 金刺基幸

 

海上幕僚監部装備計画部長を命ずる
(防衛装備庁長官官房艦船設計官)
海将補 今吉真一

 

第1護衛隊群司令を命ずる
(海上幕僚監部人事教育部人事計画課長)
海将補 小牟田秀覚

 

第2航空群司令を命ずる
(海上幕僚監部人事教育部教育課長)
海将補 降旗琢丸

 

掃海隊群司令を命ずる
(統合幕僚監部防衛計画部副部長)
海将補 福田達也

 

佐世保地方総監部幕僚長を命ずる
(掃海隊群司令)
海将補 白根勉

 

舞鶴地方総監部幕僚長を命ずる
(統合幕僚監部指揮通信システム部指揮通信システム企画課長)
海将補 吉岡猛

 

海上自衛隊第1術科学校長を命ずる
(海上自衛隊第2術科学校長)
海将補 岩﨑英俊

 

海上自衛隊第2術科学校長を命ずる
(舞鶴地方総監部幕僚長)
海将補 関口雄輝

 

海上自衛隊第3術科学校長を命ずる
(統合幕僚監部首席後方補給官)
海将補 阿部智

 

防衛装備庁長官官房艦船設計官を命ずる
(防衛装備庁プロジェクト管理部プロジェクト管理総括官)
海将補 星直也

 

(防衛装備庁プロジェクト管理部プロジェクト管理総括官を命ずる)
(海上自衛隊第3術科学校長)
海将補 石田伸介

 

退職を承認する
(海上幕僚監部装備計画部長)
海将補 大力政富
(海上自衛隊第1術科学校長)
海将補 丸澤伸二
(第2航空群司令)
海将補 瀨戸慶一

 

(以上、2020年3月18日付)

防衛省発表資料

https://www.mod.go.jp/j/press/jinji/2020/0311a.pdf

https://www.mod.go.jp/j/press/jinji/2020/0311b.pdf

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2件のコメント

前統幕長・河野元海将の件で。
河野氏が海幕防衛部長時代、護衛艦「あたご」と漁船との衝突事故が発生し、連日記者会見の映像で、当時海将補だった彼を幾度となく拝見しておりましたが、此の事件の事後処理の後、時の海幕長が退官(勇退時期が迫っていたとは言え、事実上更迭状態)、河野氏も掃海隊群司令へ異動しております。
それまで掃海畑は出世街道からは外れる例が多かったので、当時は此の人事を知った私も「この人もこれまでかな?」と思ったクチでしたが、その後の河野氏のご活躍振りは、言を要しません。

やはり、形ばかりは一度、「責任罰」を取らせたということなのかも知れないですね。
貴重なお話をありがとうございました!

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