【コラム】次期陸上幕僚長人事予想|第37代・2017年10月予想

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2017年夏の陸上自衛隊人事は、波乱と異例の連続であった。

「南スーダン日報隠蔽問題」とされた一連の出来事は、陸上自衛隊の制服組が主導したスキャンダルと認定されてしまい岡部俊哉(第25期)が引責辞任。

なおかつこの一連の騒動を、陸幕防衛部長である前田忠男(第31期)が仕組んだ安倍政権へのクーデターであると断罪する左派系メディアもあり、「平成の2.26事件だ」とまで糾弾する”識者”までいる始末。

 

おもしろいことに、この論調に立つ人は左派系というよりも極左に近い思想を持ち、憲法9条を堅持するポジションを明確にして安倍政権を叩いている論客に多く見られた。

2017年10月現在で、まだヤフーニュースの記事として見られるものもあり、また関連語句で検索するとヒットする「識者の記事」は多く見られるので、興味があれば探してみて欲しい。

 

これら論客の論旨で興味深いのは、普段は安倍政権を目の敵にしているにも関わらず、この件に関しては安倍政権を擁護し、自衛隊の制服組を徹底糾弾していることだ。

制服組を徹底的に叩き、シビリアンコントロールの強化を訴える”識者”まで登場するなど安倍政権と稲田防衛大臣を徹底支持することで、前田陸将補に代表される制服組を、伝聞をソースにしてこき下ろしているものもいる。

 

これが個人のブログであればまだしも、ヤフーニュースに掲載されるメディアでありテレビなどに多く登場する”知識人”扱いされている人の意見なのだから、なんとも情けない。

 

私はこれら”識者”が言うように、前田陸将補が本当に、稲田前防衛相を貶めるために内部情報のリークをしたのかは知らないし、知る由もない。

真実を明らかにすることに興味は無いが、文部科学省のトップにありながらハレンチな店に出入りし、安倍政権を糾弾して「内部情報とされる怪情報」をリークした誰かさんとは随分扱いが違うなあ、という違和感だけは、強く残る。

左派系の論客というのは、制服組の自衛官を、スキあらば政府を乗っ取ることを計画している悪の組織だとでも思っているのであろうか。

 

前置きが長くなってしまったが、さて、掲題の次期陸上幕僚長人事である。

こんな騒動で岡部が退任に追い込まれたのは残念だったが、兎にも角にも陸上自衛隊は代替わりし、山崎幸二(第27期)が陸幕長に就任したことで、人事の興味は28期以降のエリート自衛官に移っていくことになった。

 

まずはじめに、2017年10月現在、陸海空の幕僚長を比べてみると、

山崎幸二(第27期)・・・2017年8月着任

村川豊(第25期)・・・2016年12月着任

杉山良行(第24期)・・・2015年12月着任

となっており、陸上自衛隊が圧倒的に若い。

 

一方で、航空自衛隊は2017年12月に恐らく27期組から航空幕僚長が誕生するという予想を立てているので、代替わりが進み、陸上自衛隊並にトップの若返りが進むだろう。

海上自衛隊は、特段の問題が発生しなければ2018年12月まで、25期である村川がトップで進み、やや代替わりという意味では遅くなるかもしれない。

 

このような情勢を考えれば、27期組の山崎陸幕長の後任には、28期組である将官から選ばれる可能性が高い。

代替わりが早く進んだ分、陸上自衛隊には、27期の次に28期のトップを選ぶ余裕があるということだ。

27期である山崎が2年の陸幕長を務めた後、後任に就く時間的余裕があるということであり、そしてそれを見越しているかのように、28期組はその候補者が多彩(多才)になっている。

 

なお、この前提は2017年12月の人事で、航空幕僚長の杉山が統合幕僚長に進むことを前提にしている。

こちらのコラムで解説しているように、客観情勢から考えて間違いないとは思うが、もしこの前提が変わると陸上幕僚長人事は一気に混沌とするので、その際には改めてコラムを出したい。

 

その上で、陸上自衛隊の第28期組トップを走り、山崎の跡をついで第37代陸上幕僚長に就任する可能性があるのは、以下5名の陸将である。

 

岸川公彦(第28期)・中部方面総監 施設科出身

湯浅悟郎(第28期)・西部方面総監 普通科出身

住田和明(第28期)・東部方面総監 高射特科出身

田浦正人(第28期)・北部方面総監 機甲科出身

岩谷要(第28期)・陸上自衛隊研究本部長 施設科出身

 

過去の人事の慣例から考え、もし28期組から陸上幕僚長が選ばれる場合、この5名の中から選ばれることは間違いない。

なお、「退職ポスト」である研究本部長がなぜここに入っているのかについては後述する。

 

まずは消去法で、ポストとしては有資格者であるのに、恐らく陸上幕僚長に就任することはないであろう幹部を消し込みたい。

 

1番手は田浦正人だ。田浦は一番に、その候補から消える。

陸上自衛隊最強の北部方面隊を指揮する総監であり、最大の組織を率いる男であるのになぜかと思われるかもしれないが、陸上幕僚長は現在、第34代、第35代、第36代と、北部方面総監出身者がそのポストに連続して着任している。

この状況は、1970年代に第13代陸幕長である栗栖弘臣(東京帝大卒)から第15代 永野茂門(陸士55期)まで、3代連続で東部方面総監から選ばれた事がある例を除き、極めて異例の事態である。

なおかつ1970年代の場合、統合幕僚会議議長にあった栗栖弘臣の解任劇を巡る玉突き人事の影響であって、例外的な、同一方面総監から3代連続した陸上幕僚長就任であった。

2017年度も、岡部の解任劇が影響したと言えなくもないが、山崎については元々、2018年夏頃をめどに岡部の後任としてほぼ内定していたので、その予定が早まっただけである。

つまり予定された北部方面総監からの3代連続の選出であって、さすがに4代連続は他の方面隊とのバランスから考えてありえない。

 

なおかつ田浦の場合、第7師団長から北部方面総監への飛び級のジャンプアップであった。

本来であれば、師団長から方面総監には、陸上幕僚副長や統合幕僚副長、防衛大学校幹事といった上級職の要職を一つ挟むものである。

にも関わらず田浦は、岡部の退任劇の影響で突然のジャンプアップとなったために、師団長と方面総監の間で経験するべき中央の要職を経験していない。

 

このような前提がある以上、田浦が第37代陸上幕僚長に就任する可能性は低いだろう。

 

次に消去法で消えるのは湯浅だ。

それは能力やキャリアの問題ではなく、慣例というものでもない。

ただ単に、年齢の問題である。

じつは湯浅は、27期の陸幕長である山崎よりも年上だ。

2017年度で58歳になるため、山崎が任期いっぱいまで陸上幕僚長を務める頃には陸将としての定年である60歳間近になる。

そのため、もし山崎の後任として陸上幕僚長に就任するのであれば、最初から定年延長の閣議決定が前提となる。

 

突出して優秀であり、他に比較にもならないほど適任者がいないのであれば考えられなくもないが、さすがにこの人事は無いであろう。

 

そして残ったのが岸川、住田、岩谷の3名だ。

この中になぜ岩谷が入っているのかと、思う人も多いかもしれない。

2017年現在、岩谷が補職されているのは陸上自衛隊研究本部長職であり、このポストは極めて重要ではあるものの、将官にとって次がない引退ポスト扱いとされてきた。

 

しかしこのポストは、2018年3月に行われる陸上自衛隊大改革を受け、一気にその重要性が高まるポストだ。

どのように変わるのか。

陸上自衛隊研究本部は廃止された上で、陸上自衛隊の各種学校を隷下に治める形で、教育と研究を一元化する大組織、陸上自衛隊教育訓練研究本部へと改編される。

教育機関だけでなく研究組織もその隷下に治めるので、この新しい組織は航空自衛隊の航空教育集団よりもさらに職責が大きくなることになるわけだ。

 

航空自衛隊の航空教育集団は、航空幕僚長に就任する前に座る最後のポストの一つであるので、その役割の重さを理解して頂けるであろう。

陸上自衛隊に同様の組織が誕生し、その初代本部長に内定していると言っても良い岩谷が、陸上幕僚長候補になるのは必然であると言える。

 

なおかつ、日本陸軍からの伝統も無視できない。

我が国が戦争に敗れる前、日本陸軍で「陸軍3長官」と呼ばれもっとも重要視されたポストは

・陸軍大臣

・参謀総長

・教育総監

であった。

 

このうち陸軍大臣に相当するのは防衛大臣だが、現在の制服組には存在しないポストだ。

参謀総長は陸上幕僚長であろう。

そして教育総監は、2017年現在は存在しないが、2018年3月からは存在することになり、その初代本部長に就任し、陸上自衛隊のすべての教育を掌握するのが岩谷ということになる。

このポストは間違いなく、近い将来、陸上幕僚長に就任する前に座る最後のポストのひとつになる。

恐らく、同じ2018年3月に新設される陸上総隊司令官のポストと並んで、陸上幕僚長候補者の最後の通過点になるだろう。

主にこの2つのポストから、2018年3月以降は陸上幕僚長が選ばれる時代が始まる。

 

とは言えさすがに、新設ポストからいきなりの陸上幕僚長就任があると思っているわけではない。

近い将来の可能性として、抑えてもらえればということで、紹介をしておきたかったのが本当のところだ。

 

とはいえ可能性は0ではないので、岩谷の今後の活躍には注目して欲しい。

 

その上で、恐らく山崎幸二の後任として第37代陸上幕僚長に就任する可能性があるのは、中部方面総監の岸川か、東部方面総監の住田であろう。

 

正直、この2名については甲乙が付け難く予想が難しい。

その為、住田と岸川について、それぞれ陸上幕僚長に進むであろうプラスの可能性とマイナスの可能性を仕分けしてみたい。

 

■住田和明

陸幕長に昇るであろう根拠

・統合幕僚副長経験者であること

・南西方面に新設する新基地でもっとも重要となる兵科の一つ、高射特科出身であること

・戦闘職種出身であり、その就任が中国人民解放軍に対するメッセージとなること

陸幕長に昇るのが難しい根拠

・東部方面総監は、陸上幕僚長に昇るポストとしては近年の実績が弱いこと

 

■岸川公彦

陸幕長に昇るであろう根拠

・西部方面総監部幕僚副長や第8師団長など、西方での指揮官経験が豊富なこと

・中部方面総監は近年、北部方面総監に次いで陸幕長就任前の最後のポストになる事が多いこと

陸幕長に昇るのが難しい根拠

・施設科出身であり、山崎と2代連続で施設科出身者が就任するのは難しいこと

・我が国の安全保障環境を考えると、施設科の陸幕長が連続する人事は穏健に過ぎるメッセージとなって諸外国に伝わること

 

といったところであろうか。

正直、この2名はなんとも甲乙つけがたいものの、あえて白黒つけるのであれば、おそらく住田和明が、第37代陸上幕僚長に就任するのではないだろうか。

 

なぜか。

そのキャリアが、陸上幕僚長に就任するもののために用意されたような経歴を歩んできているためだ。

 

やはり将来の陸上幕僚長候補として意識され、キャリアを形作られてきたものの経歴は独特のものがある。

少なくとも、1等陸佐以降の経歴では、住田は将来の幕僚長候補として意識され、キャリアの形成が行われたのは間違いない。

 

そういった意味で、甲乙つけがたい場合には、予定された人事として住田に軍配が上がる結果になるのではないだろうか。

 

いずれにせよ、その結果が出るのはおそらく2019年夏であろう。

そしてその頃には、2017年12月に統合幕僚長に就任しているかもしれない杉山良行・航空幕僚長の退役を前提に、次こそ陸上幕僚長から統合幕僚長にポストの移行が検討されているころだ。

 

第37代陸上幕僚長は住田和明になる。

とりあえずこの予想を、2017年10月現在でのコラムに置いておきたい。

(了)

 

 

【注記】

このページに使用している画像の一部及び主要経歴は、防衛省のルールに従い、防衛省のHPから引用。

主要経歴については、将補以上の階級のものにあっては防衛年鑑あるいは自衛隊年鑑も参照。

自衛官各位の敬称略。

※画像はそれぞれ、軽量化やサイズ調整などを目的に加工して用いているものがある。

【引用元】

防衛省陸上自衛隊の公式Webサイト(顔写真)

http://www.mod.go.jp/gsdf/mae/soukan/soukan.html

http://www.mod.go.jp/gsdf/nae/2d/event/28souritu/28souritu.html

http://www.mod.go.jp/gsdf/wae/kakusyukatudou/koudou/cyakunin/yuasatyakunin.htm

http://www.mod.go.jp/gsdf/nae/7d/dcg-katudou.html

http://www.mod.go.jp/gsdf/wae/4d/dcg/dcg.html

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