さて、困難極まりない人事予想である。
正直に言って、幾つかのパターンは予想できるものの、これほど困難な人事予想はなかなかない。
2018年3月に新設される、陸上総隊の初代司令官についてだ。
これほどの大規模な陸上自衛隊の大改革は陸上自衛隊始まって以来と言ってもよく、そして我が国最大の実力集団を一手に収める陸上総隊が誕生するわけだ。
その初代司令官人事と言えば、おそらく今も日本政府や内局、あるいは制服組関係者を含めて激論が交わされていることだろう。
いつであったか、次期主力戦闘機F-Xの選定が佳境に差し掛かっている時、F-35がいい、タイフーンがいい、F-22じゃないとイヤだと、ネット上で無関係な軍ヲタの人たちが熱い議論を交わしていたことがあったが、まさにその時と同じ空気を感じる。
(誰も議論に参加していないし、一向に盛り上がっていないが・・・)
しかし、初代陸上総隊司令官に誰を着任させるのか、という人事は、我が国の国防に対する意志表示そのものであり、取りも直さずそれは、同盟国であるアメリカに対してはもちろん、敵性国家である幾つかの国に対するメッセージでもある。
また内向きには、このポストはどういう性質のものであり、どのような運営を意図して組織されたものであるのか。
そういった意志表示であることはもちろん、何よりも初代司令官と初代司令部は、2代目以降では容易に拭い難い最初の伝統を作ることになり、その性質を決定づけるほどのインパクトを持つ。
そのような、我が国で最大の実力組織の初代司令官に誰を据えるのか。
これは本来であれば、F-X選定と同じくらい、重いインパクトがある人事となるはずだ。
泣いても笑っても、この記事をポストしてからおよそ半年後には、そのポストに座るものが決まる。
そしてそれは誰なのかを予想してみようというのが、このコラムの目的である。
まずはじめに、絶対に外さないであろう前提から置いて行きたい。
それは、初代陸上総隊司令官に選ばれる可能性がある者は、
「5人いる方面総監のうちの誰かである」
ということだろう。
理由は単純に、陸上総隊司令官は有事の際、5つある方面隊を指揮する可能性がある組織になるからであり、方面総監出身者から出るのが筋だからだ。
(※但し、陸上総隊は方面隊の上級組織ではなく、方面隊は陸上総隊の隷下ではないことが最終的に確定しているので注意して欲しい。)
ただしこれは、2代目以降はこうはならない。
あくまでも絶対条件になるのは初代だけだと思われるが、その理由は後述する。
次に考えなければならないパターンは2つ。
山崎幸二(第27期)・陸上幕僚長の同期でありながら、山崎の陸幕長就任後も東北方面総監であり続けている山之上哲郎(第27期)がそのポストに就くのか。
あるいは山崎の後任である第37代の陸上幕僚長候補になる、第28期組の方面総監4人から選ばれるのか、というパターンだ。
なおこの場合、28期組から選ばれるとすれば、次期陸上幕僚長候補筆頭になるだろう。
ただし絶対ではない。
なぜなら、2018年3月には陸上総隊の新設だけでなく、陸上自衛隊教育訓練研究本部の新設も予定されているからだ。
この組織は必ず、陸上幕僚長就任前に最後に座るイスのひとつになる事が予想されるが、その理由は先日のコラム、
で詳述しているので、ここでは割愛する。
そしてこの新組織の初代本部長に座ることになるのが恐らく確実なのが岩谷要(第28期)だ。
もし28期組の方面総監から初代陸上総隊司令官が誕生する場合、岩谷とともに次期陸上幕僚長を争うことになるだろう。
つまり、4人いる28期組方面総監の中から陸上総隊司令官が選ばれる場合、それは次期陸上幕僚長候補筆頭となるものだけだということだ。
そしてそれは東部方面総監の住田和明(第28期)か、もしくは中部方面総監の岸川公彦(第28期)ということになる。
他に2人いる方面総監、すなわち北部方面総監の田浦正人(第28期)と西部方面総監の湯浅悟郎(第28期)は、方面総監にまで昇ったが、陸上幕僚長に就任することはまず無いだろう。
その理由についてはこちらのコラム、
で詳述しているので、ここでは割愛したい。
要するに、陸上総隊初代司令官には、27期組の山之上が選ばれるか、28期組の陸幕長候補である住田もしくは岸川が選ばれるか、ということである。
なお、なぜ陸上総隊初代司令官のみが、5人の方面総監縛りで選ばれるのか、という話である。
陸上総隊司令官は、その象徴的なポストの意味合いから、次期陸上幕僚長筆頭のポストになることは間違いない。
然しながら自衛隊は、「次に頂点に座って当然」などというポストを用意するほど甘い組織でもない。
頂点に座る瞬間まで切磋琢磨させ、競い合わせる仕組みは必ず残す。
そういった意味では、陸上総隊司令官ポストが設置された後に、これに匹敵するほどの重職になり得るのは、2017年10月現在の観測では陸上自衛隊教育訓練研究本部長くらいだ。
またもう一つ、人事の運用を改め、海上自衛隊や航空自衛隊のように、幕僚副長のポストも幕僚長へのジャンプアップがありえる役職に変えていく事も考えられるだろう。
しかしながら、2017年現在、陸上幕僚副長のポストにあるのは高田克樹(第29期)であり、これまでの運用の延長に在る陸上幕僚副長なので、ここから陸上幕僚長へのジャンプアップはまず想定できない。
もちろん、後職での陸上総隊司令官への着任もまずありえないだろう。
同様に、教育訓練研究本部もまだ発足しておらず、岩谷要はまだ、陸上自衛隊研究本部長に就任したばかりというのが、2017年10月現在の状況だ。
そのため、近い将来にこれらポストが陸上総隊司令官に匹敵するポストになり、あるいは後職として総隊司令官に着任するポストになる可能性はあるが、それは今ではない。
そのため、5つある方面隊の総監から、初代の陸上総隊司令官が選ばれるはずである、という推測の根拠となっている。
随分と前提が重なってしまったが、これらの仮定に基づいて推測すると、初代陸上総隊司令官に座る可能性があるのは3名。
すなわち山之上哲郎(第27期)、住田和明(第28期)、岸川公彦(第28期)である。
さらに絞ると、おそらく第28期組の陸上幕僚長候補として本命であると予想しているのは住田和明であるので、山之上か住田か、そのどちらかだ。
この2名については、27期組の山之上を変則的に27期組の陸幕長の下で重職に就けるのか。
もしくは慣例に従い、山之上は程なくして退役させ、28期組からこの重職に就くものを選ぶのか、という選択であり、率直に言って予想が困難だ。
しかしながら、27期組の方面総監である山之上をわざわざ残した理由を考えると、それは陸上総隊司令官のポストに座らせるためであろうと考えるのが、一つの自然な考え方ではある。
また住田であれ岸川であれ、方面総監に着任したのは2017年8月であり、2018年3月の陸上総隊司令官着任は早すぎるのではないか、ということも言えるだろう。
また何よりも、山之上は第一空挺団長経験者であり、また師団長経験が第8師団長(熊本)だ。
つまり、中央即応集団の隷下にあった部隊を引き継ぐ陸上総隊司令官にふさわしい経験と知見があり、また2017年10月現在、我が国の新しい最前線とも言える西部方面隊隷下での指揮官経験(第8師団長)がある。
そういった意味では、住田にはそのいずれの経験もなく、岸川には第8師団長の経験があるものの、出身職種が施設科であり、初代陸上総隊司令官に着任し、その組織の性格を決定づけるには穏健に過ぎるメッセージとなるだろう。
このようなことから、陸上総隊の初代司令官としてその組織の性格を決定付け、有事において戦えることを前面に押し出した組織を作っていくことを志向する以上、山之上がその初代司令官に最もふさわしいということになるのではないだろうか。
この選択肢がもっとも合理的であると思われるものの、ただ、27期の陸幕長の下で27期の最重要司令官など、正直言って自衛隊の人事では前代未聞である。
同期が頂点に座れば、その他の同期は原則として退役するのが慣例である以上、本当にこんなことになるのか半信半疑だが、これ以外に最適と思える人事が想定できないので、2017年10月現在で、この人事予想を置いておきたい。
答えが出るのはおよそ半年後だ。
荒唐無稽な予想にも思えるが、自信を持って予想としたい。
(了)
【注記】
このページに使用している画像の一部及び主要経歴は、防衛省のルールに従い、防衛省のHPから引用。
主要経歴については、将補以上の階級のものにあっては防衛年鑑あるいは自衛隊年鑑も参照。
自衛官各位の敬称略。
※画像はそれぞれ、軽量化やサイズ調整などを目的に加工して用いているものがある。
【引用元】
防衛省陸上自衛隊 中央即応集団公式Webサイト(顔写真)
http://www.mod.go.jp/gsdf/crf/pa/
防衛省統合幕僚監部 公式Webサイト(顔写真)
http://www.mod.go.jp/js/Joint-Staff/js_vcs.htm
防衛省陸上自衛隊 中部方面隊公式Webサイト(顔写真)
http://www.mod.go.jp/gsdf/mae/soukan/soukan.html
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