その末吉が陸上自衛隊に入隊したのは平成元年3月。
1等陸佐に昇ったのが20年1月、陸将補に昇ったのが26年8月であったので、共に33期組1選抜(1番乗り)となるスピード出世だ。
1選抜での陸将補昇任なので、近い将来の陸上幕僚長候補の一人と言ってよいだろう。
(画像提供:陸上自衛隊富士学校公式Webサイト 岳友249号 ※PDF注意)
そのキャリアは、1等陸佐昇任後だけで見てみると、最初のポストは中央情報隊本部付隊。
職種部隊では、前述のように秋田駐屯地に所在する第21普通科連隊で連隊長に上番した他、「諸職種協同」の要・富士学校の普通科部長にも着任している。
特に、即応機動連隊・機動師団(旅団)という新しい国防体制が構築されつつある陸上自衛隊において、この普通科部長で成し遂げた実績は非常に大きい。
また中央では、班長ポストを陸上幕僚監部の装備計画課企画班で務め、課長ポストは「将官昇任前指定席」と言っても良い統合幕僚監部の運用第2課長に着任。
そして東部方面総監部幕僚副長、統合幕僚監部運用部副部長の要職を経て2018年8月に陸上幕僚監部運用支援・訓練部長を任され現在に至る。
33期1選抜の将官らしい、非常に充実した経歴を誇る幹部であると言ってよいだろう。
では最後に、その33期組の人事の動向について少し見ておきたい。
33期組は2014年に最初の陸将補が選抜され、2020年に最初の陸将が選抜される予定になっている年次だ。
そして2019年1月現在で、以下の幹部たちが陸将補の任にあたっている。
冨樫勇一(第33期)・陸上幕僚監部人事教育部長(2014年8月)
山根寿一(第33期)・第13旅団長(2014年8月)
牛嶋築(第33期)・東北方面総監部幕僚長兼ねて仙台駐屯地司令(2014年8月)
末吉洋明(第33期)・陸上幕僚監部運用支援・訓練部長(2014年8月)
廣惠次郎(第33期)・陸上幕僚監部指揮通信システム・情報部長(2015年3月)
児玉恭幸(第33期)・陸上幕僚監部監察官(2015年8月)
梅田将(第33期相当)・大阪地方協力本部長(2015年12月)
酒井秀典(第33期)・第1ヘリコプター団長兼ねて木更津駐屯地(2016年3月)
宮本久徳(第33期)・第1高射特科団長(2016年12月)
堀江祐一(第33期相当)・陸上自衛隊高等工科学校長兼ねて武山駐屯地司令(2017年3月)
楠見晋一(第33期)・中央情報隊長兼ねて陸上総隊司令部情報部長(2017年8月)
更谷光二(第33期)・東北方面総監部幕僚副長(2018年3月)
※肩書はいずれも2019年1月現在。( )内は陸将補昇任時期。
※2018年8月以降の将官人事で昇任した陸将補の確認が未了のため、加筆する可能性あり。
以上のような状況になっており、まずは冨樫、山根、牛島、末吉の4名が中心になって、33期組の最高幹部人事は進んでいくことになるだろう。
ところで冒頭に紹介した、末吉の第21普通科連隊長当時の話には、まだ続きがある。
甲子小学校を引き払い、児童たちとお別れした後の末吉はその後しばらくしてから甲子小学校を再訪しているのだが、その時の様子を 軍事漫談家 軍事評論家の井上和彦氏が動画でレポートし、ネット上にアップしている。
その光景は、本当に感動的なものだった。
末吉が小学校に現れると、子供たちが群れになって、いきなり末吉に飛びかかった(笑)
「おんぶ!」と背中に飛び乗る子供がいたかと思えば、その腕に抱きつき、愛おしそうに抱える子供もおり、完全に人気者だ。
男子児童も女子児童もなく大騒ぎであり、まるで教育実習にきた大学生の頼りになるお兄さんである。
末吉がこの地でどのような活動を展開し、そして被災者一人ひとりとどのように向き合っていたのか、この素直な子供たちの姿が全てを物語る。
感動的であり、末吉がただのエリートではないことを証明して見せるような、そんな動画であった。
なお余談だが、この動画の中ではこんなシーンもあった。
小学生たちがインタビューごっこで、末吉にマイクを向け質問をする。
「毎朝何時に起きてますか?」
「そうですね、朝は4時ぐらいから起きて、皆さんの食事の準備を始めてますよ」
「すごーい!ということは、お仕事は炊事係ですね?」
連隊長のネームタグも、1等陸佐の階級章もハッキリと分かる迷彩服姿なのだが、子供たちにはそんなもの無関係である(笑)
なおこの時の子供たちは主に5~6年生。
6年生であれば、早ければこの子たちの中から、2024年頃に自衛隊に入隊する者もいるかもしれないが、その頃末吉は恐らく方面総監クラスか、それ以上に出世しているだろう。
エライこと言ってしまったと、良い思い出になっているのではないだろうか・・・。
ちなみにこの質問に対する末吉の回答は、
「そうだね、炊事をする人がケガをしたりしないよう、ちゃんと段取りを進められるようにお手伝いするのが仕事かな」
というものだった。
ちょっと鹿児島なまりの残る、暖かな人柄を感じさせる話しぶりはどこまでも優しい。
1選抜のエリートと言えば、どうしても天才肌で頭のキレる人ばかりなのかと想像してしまうものだが、末吉の立ち居振る舞いはそういったものとは無縁だ。
もちろんキレ者でないはずがないのだが、それだけではここに昇ることはできず、優れた人格に人としての魅力に溢れる人物であることを窺い知ることが出来る、感動的な動画だった。
こんな男を評価する、陸上自衛隊という組織が大好きである。
これからも、末吉をはじめ全ての幹部曹士の活躍を心から、応援していきたい。
※文中、自衛官および関係者各位の敬称略。
(画像提供:宮城地方協力本部公式Webサイト)
◆末吉洋明(陸上自衛隊) 主要経歴
平成
元年3月 陸上自衛隊入隊(第33期)
12年1月 3等陸佐
15年7月 2等陸佐
16年3月 幹部学校
16年7月 陸上幕僚監部防衛課
20年1月 1等陸佐
20年3月 中央情報隊本部付隊
21年7月 陸上幕僚監部装備計画課企画班長
23年4月 第21普通科連隊長
24年7月 統合幕僚監部運用第2課長
26年8月 東部方面総監部幕僚副長 陸将補
28年3月 富士学校普通科部長
29年8月 統合幕僚監部運用部副部長
30年8月 陸上幕僚監部運用支援・訓練部長
遂に北部方面総監に着任ですね・・・西方重視の時代に北方の指揮官を任されるというのは、やはり切れ者だからではと思います。
末吉さんの総監着任は、本当に嬉しいですね!