その吉野が陸上自衛隊に入隊したのは昭和62年3月。
1等陸佐に昇ったのが平成17年6月であったので、これは31期組1選抜よりも半年も早い昇任だが、例によって防衛駐在官として海外に赴任するための特例的な扱いだ。
陸将補に昇ったのが27年12月であったので、10年に渡り1等陸佐で現場に在った上での、堂々の将官昇任であった。
(画像提供:陸上自衛隊目達原駐屯地公式Webサイト)
1佐以降の経歴だけで見ると、先述のように1佐としての最初のポストは防衛駐在官であり、オランダに赴任している。
帰国後は、中央では統合幕僚学校教官、統合幕僚監部補給室を経て陸上幕僚監部装備計画部の武器・化学課化学室長などの要職を経験。
現場にあっては、西部方面総監部装備部長、第15旅団副旅団長など、こちらも国防の最前線で極めて重要なポストを歴任した。
そして平成27年12月に陸将補に昇ると、職種系のポストとしてはもっとも栄誉ある任務の一つである化学学校長に着任。
その後職として30年12月、九州補給処長兼ねて目達原駐屯地司令に着任し、辣腕を振るっている。
その経歴を考えると、きわめて頼もしい最前線の兵站責任者であると言えるだろう。
なお、吉野が務めたこのオランダ防衛駐在官について、もう少し補足をしておきたい。
なぜ吉野であり、なぜオランダであったのか、ということには、実は重大な意味がある。
オランダには、化学兵器の拡散防止と使用を禁じた国際条約によって設置された国際機関・OPCW(化学兵器禁止機関)が存在する。
そしてその設立と運営には、実は陸上自衛隊が深く関わってきたという、知られざる歴史が存在する。
実は我が国は、生物化学兵器という非人道的な武器を人類から撲滅するために、国際的にも非常に大きな貢献を果たしてきた誇るべき歴史があるということだ。
そしてそのOPCWについて、日本の代表部がハーグの日本大使館に設置をされたことから、在オランダ防衛駐在官は陸自の受け持ちとなり、特に化学科の中でも選りすぐりの高級幹部が赴くようになった。
そして吉野が、その世界平和を担う重責を任されたということだ。
ちなみに吉野の後任であるオランダ防衛駐在官は、平野邦治(第34期)。
もちろん陸自化学科の幹部であり、吉野と同様にこの国際舞台で辣腕を発揮した。
実は陸自には、このような誇るべき仕事師がいることにも、ぜひ注目をして欲しいと願っている。
ところで全く関係のない余談だが・・・
上記画像2枚めを見て欲しい。
これは、現・陸上幕僚長で、当時西武方面総監であった湯浅悟郎(第28期)から、第3級賞状を受領する際の吉野の画像だ。
注目してほしいのは、総監室の壁にかかっているカレンダーである。
ぼやけていてよくわからないが、これは上皇陛下と上皇后陛下(当時は天皇・皇后両陛下)ではないだろうか。
当然といえば当然なのかもしれないが、自衛隊の最高幹部執務室に、このようなカレンダーが飾られているというのは、なんとも嬉しい想いがする。
ぜひ、高級幹部の位置づけだけでも、かつてのように親補職に戻ることを望みたい。
では最後に、その吉野と同期である31期の状況について見ておきたい。
31期組は、2018年夏の将官人事で最初の陸将が選抜されたばかりの年次にあたる。
そして2019年5月現在、その陸将の任にある幹部は以下の通りだ。
竹本竜司(第31期)・第1師団長(2018年8月)
沖邑佳彦(第31期)・第4師団長(2018年8月)
前田忠男(第31期)・第7師団長(2018年8月)
原田智総(第31期)・陸上総隊司令部幕僚長(2019年4月)
蛭川利幸(第31期)・第6師団長(2019年4月)
※肩書はいずれも2019年5月現在。( )は陸将昇任時期。
以上のような状況になっており、まずはこの5名が31期組1選抜として名乗りを上げた形だ。
いずれも近い将来の陸上幕僚長候補として遜色のない将星ばかりであり、その活躍がとても楽しみである。
吉野については、化学科の幹部として非常な実績を積み上げ、さらに国防の最前線にあって兵站の責任者を務めたほどの最高幹部だ。
九州補給処と言えば、通常はそのまま退役となることも考えられるポストだが、恐らく後職でもさらに重い責任を担うことになり、いずれかの方面隊で幕僚長に昇ることになるのではないだろうか。
いずれにせよ、我が国の国防に直結するほどに、重い責任を担う吉野のご紹介であった。
その活躍には今後も注目し、そして応援していきたい。
※文中、自衛官および関係者各位の敬称略。
(画像提供:陸上自衛隊目達原駐屯地公式Webサイト)
◆吉野俊二(陸上自衛隊) 主要経歴
昭和
62年3月 陸上自衛隊入隊(第31期)
平成
10年1月 3等陸佐
13年7月 2等陸佐
17年6月 オランダ防衛駐在官 1等陸佐
20年8月 統合幕僚学校教官
20年12月 統合幕僚監部補給室
22年8月 陸上幕僚監部装備計画部武器・化学課化学室長
24年7月 西部方面総監部装備部長
26年12月 第15旅団副旅団長
27年12月 化学学校長 陸将補
30年12月 九州補給処長兼ねて目達原駐屯地司令
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