その村川が海上自衛隊に入隊したのは昭和56年3月。
1等海佐に昇ったのが平成12年1月だったので、25期1選抜(1番乗り)での昇任であった。
一方で海将補昇任は20年3月だったので、同期1選抜に比べ1年半の遅れである。
また海将昇任は25年8月なので、こちらも同期1選抜の1年遅れであった。
海上自衛隊や航空自衛隊では、陸上自衛隊と違い、将官に1選抜で昇ることが、同期の幕僚長候補になることを直ちに意味しない。
陸自では、陸幕長に選ばれるものはまず間違いなく、1選抜で将官に昇っていると言って良いが、海空はそもそも、将官の絶対数が陸に比べ圧倒的に少ない。
そういうこともあり、1選抜から幕僚長が選ばれるわけではないという、海空自衛隊人事も垣間見える昇任であった。
(画像提供:海上自衛隊舞鶴地方隊公式Webサイト)
さて、そのように驚きを持って受け取られた村川の海幕長着任であったが、その村川の後は誰が継ぐのか。
第34代海上幕僚長の予想をしてみたい。
村川の海幕長着任は2016年12月。
そのためその任期は、2018年12月までか、長くとも2019年春までと予想される。
この際に、ポストの格やこれまでの人事の慣例を考えても、候補となりえるのは2018年2月現在で以下の最高幹部たちとなるだろう。
道満誠一(第26期)・横須賀地方総監(2016年12月)
山下万喜(第27期)・自衛艦隊司令官(2016年12月)
山村浩(第28期)・海上幕僚副長(2016年12月)
菊地聡(第28期)・佐世保地方総監(2017年12月)
※肩書は全て2018年2月現在。( )は現職着任時期。
過去の人事のみを参考にすると、これに加え航空集団司令官の杉本孝幸(第29期)と、大湊地方総監の中西正人(第27期)も考えられないわけではない。
確かに、近年我が国近海の警戒監視活動だけでなく、国際貢献活動での活躍が目覚ましい海自の航空部隊なので、その司令官ポストはかつてのように海上幕僚長候補として考えられても何ら違和感はない状況だ。
しかし、2018年2月現在でその司令官である杉本は29期なので、後職としていきなりジャンプアップすることは考えづらい。
大湊地方総監についても、近々の安全保障環境を考えると、その後職としてジャンプアップする可能性はやはり考えられない。
そのため、村川の後を継ぐ可能性があるのは上記の4名に絞られそうだ。
結論から言うと、この4名の中ではまず間違いなく、山下が選ばれるだろう。
サプライズ人事で世間を驚かせる事が多い自衛隊の幕僚長人事ではあるが、今度ばかりは鉄板である。
もし外すようなことがあれば、丸坊主にしてお詫びしても良いと断言できる超鉄板人事だ。
山下は、現職で海上自衛隊のほぼ全ての実力部隊を指揮する自衛艦隊司令官を務めていると言うだけでなく、地方総監の中で、横須賀地方総監と並びもっとも格上である佐世保地方総監も経験している。
つまり、実力部隊の最高ポストと、地方組織の最高ポストの両方を経験しているということだ。
さらに、水上艦艇の指揮官出身でありながら潜水艦隊幕僚長にも補職された経験があり、組織マネジメント、実力部隊の指揮官として全く欠けている要素が無い。
さらに、海上自衛隊幹部学校長の経験もあり世界各国の海軍首脳とも「軍人外交」を繰り広げげるなど、その活躍の幅は海自の最高幹部として求められるあらゆる分野に及ぶ。
また海自の最高幹部としては異例なことだが、民間のコンテンツサービスにも出演するなど一般市民への露出も多く、その親しみやすい人柄で一般人にもファンが多いことから、「テレビ映り」もバッチリだ。
ここまで完全無欠な海将が、海上幕僚長に昇らないとはとても思えない。
更にいうと、統合幕僚長のローテーションも、山下を必ず統合幕僚長に昇らせることを意識して、時期の調整を図るのではないだろうか、と思えるほどに、海上幕僚長は通過点になる可能性すらあるだろう。
その一方で、一つだけ心配なことがある。
山下と同じように、これほどまでに完璧なキャリアを昇りながらも、海上幕僚長になれなかった男が過去にいたことだ。
その幹部とは、第36代自衛艦隊司令官を最後に退役した、香田洋二(第16期)・元海将。
香田元海将も、山下と同じように水上艦艇出身でエリート街道を順調に昇り、海将昇任後は護衛艦隊司令官、統合幕僚会議事務局長(今で言う統合幕僚副長に相当)、佐世保地方総監、自衛艦隊司令官を歴任した。
これほどのキャリアを誇る男が海上幕僚長に昇らないことはありえないだろう。
誰もがそう信じて疑わない完璧なキャリアであったが、香田は自衛艦隊司令官に在任中に起きた幾つかの事故で管理責任を負わされる形で減給処分となり、結局このポストを最後に退役することになってしまった。
表向きはいくつかの不祥事の責任を取らされた形だが、実態は当時、防衛省で「天皇」とまで言われていた事務方の実力者との対立がその理由とされている。
その事務方の実力者は後に事務次官に昇ったものの、その後、在任中の収賄事件で有罪判決を受ける不祥事を起こすなどした、有名な高官だ。
その人物に関する評価は本論ではないので触れないが、ここで言いたいことは、完璧なキャリアを誇り制服組で極めて大きな影響力を持つ立場になってしまうと、事務方から、あるいは政府筋から警戒をされる可能性もあるということだ。
程々に有能であれば誰も警戒はしないが、飛び抜けて優秀な軍人を組織のトップにしてしまうと影響力が大きくなりすぎるのではないか、という警戒心。
もし山下が海上幕僚長に昇れない理由があるとすれば、おそらくそういう要因もあるかもしれないだろう。
いずれにせよ、その答が出るまでおそらくあと1年はかからない。
そういった意味でも、村川の後を継ぐ海上幕僚長人事にはぜひ注目して欲しい。
そして結果に関わらず、海上自衛隊へのさらなる応援をしてもらえれば幸いだ。
※文中、自衛官および関係者各位の敬称略。
(画像提供:海上自衛隊自衛艦隊司令部公式Webサイト)
◆村川豊(海上自衛隊) 主要経歴
昭和
56年3月 海上自衛隊入隊(第25期)
平成
4年1月 3等海佐
7年7月 2等海佐
8年3月 呉地方総監部経理課長
9年3月 海上幕僚監部人事課
10年12月 海上幕僚監部補任課
12年1月 1等海佐
13年6月 海上幕僚監部人事計画課
13年12月 海上幕僚監部人事計画課企画班長
15年12月 海上幕僚監部経理課経理調整官兼経理班長
16年12月 佐世保地方総監部経理部長
18年8月 海上幕僚監部総務課長
20年3月 海上幕僚監部総務部副部長 海将補
21年3月 阪神基地隊司令
22年7月 第4術科学校長
23年8月 海上幕僚監部人事教育部長
25年8月 補給本部長 海将
27年8月 海上幕僚副長
28年12月 第33代海上幕僚長
31年4月1日 海上幕僚長のポストを最後に退役
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