叶謙二(かのう・けんじ)|第32期・陸上自衛隊開発実験団長

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話は東日本大震災当時のことだ。

東日本震災当時、叶は我が国特科部隊の精鋭・第1特科団隷下の第4特科群長を務めていた。

兼ねて上富良野駐屯地司令である。


(画像提供:陸上自衛隊北部方面隊公式Webサイト

そして震災が発生すると、叶以下その第4特科群にも直ちに、宮城県を中心とした東北地方に出動するよう命令が下る。

この際、叶は自ら部隊の先頭に立ち、

「敗戦以来の最大の国難で活躍できることを、誇りに思え!」

と檄を飛ばし、直ちに現地に急行。

2ヶ月に及ぶ長期の過酷な任務中、厳しく規律を引き締め、部隊の士気を維持した。

そして人命救助や不明者の捜索はもちろん、被災者の生活支援など物心両面からあらゆる支援を行い、叶以下の第4特科群は私たち国民の心を確実に掴む活躍を見せる。

その活躍はめざましく、任務を終えて宮城を去る時には、避難所から多くの手紙や感謝の気持ちが部隊の幹部曹士に寄せられるほどであった。

 

心身ともに疲れ果て、自分のことだけで精一杯であるはずの被災者の皆さんから感謝の手紙が次々に寄せられる働きぶりとはどんなものなのか。

ただ、その事実だけで叶以下、第4特科群幹部曹士の働きぶりをご理解頂けるのではないだろうか。

叶はあれ程に過酷な任務の中にあっても、その最前線に立ち、被災者の心を確実に掴んだ。

 

そしてその帰路、秋田港から富良野を目指す段になり叶は部隊に対し、厳しく維持してきた規律を最後に解いて、飲酒を許し心身の慰労を図ろうと考えたそうだ。

しかし隊員たちは口々に、

「最後まで規律を維持し富良野に戻ります!」

と、叶に申告。

当時の先任曹長は、それほどまでに高まった部隊の士気と規律意識を振り返り、誇りに思ったことを述懐している。

叶が率いていた部隊とは、過酷な任務にあってもそれほどまでに強く、そして優しかった。

研究開発系の幹部ではあるが、叶がどれほど統率力に優れた指揮官であるのか。

おわかり頂けるのではないだろうか。

 

では最後に、その叶と同期である32期の人事の動向について、さらっと見ておきたい。

32期組は、2019年夏の将官人事で最初の陸将が選抜される予定の年次であり、2019年5月現在では、1選抜の幹部でも陸将補ということになる。

そしてその陸将補にある幹部たちは、以下の通りだ。

 

梶原直樹(第32期)・統合幕僚監部防衛計画部長(2013年8月)

大塚裕治(第32期)・陸上幕僚監部装備計画部長(2013年8月)

森下泰臣(第32期)・陸上幕僚監部防衛部長(2013年8月)

堀井泰蔵(第32期相当)・第5旅団長(2013年8月)

中村裕亮(第32期)・第15旅団長(2014年3月)

田尻祐介(第32期)・第12旅団長(2014年8月)

鬼頭健司(第32期相当)・東部方面総監部幕僚長兼ねて朝霞駐屯地司令(2014年12月)

木口雄司(第32期)・中部方面総監部幕僚長兼ねて伊丹駐屯地司令(2015年8月)

腰塚浩貴(第32期)・施設学校長(2015年8月)

青木伸一(第32期)・水陸機動団長兼ねて相浦駐屯地司令(2015年12月)

池田頼昭(第32期)・第10師団副師団長兼守山駐屯地司令(2016年3月)

檀上正樹(第32期)・陸上自衛隊小平学校長兼ねて小平駐屯地司令(2017年3月)

小谷琢磨(第32期)・第4施設団長(2017年8月)

斎藤兼一(第32期相当)・第7師団副師団長兼ねて東千歳駐屯地司令(2017年12月)

叶謙二(第32期)・開発実験団長(2018年3月)

佐々木俊哉(第32期)・自衛隊情報保全隊司令(2018年3月)

岩名誠一(第32期)・東北方面総監部幕僚副長(2018年8月)

※肩書はいずれも2019年5月現在。( )内は陸将補昇任時期。

※2018年8月以降の将官人事で昇任した将補の期別は未確認のため、追記する可能性あり。

 

以上のようになっており、まずは梶原、大塚、森下、堀井の4名が1選抜で陸将補に昇任し、同期の最高幹部人事の中心になっている状況だ。

2019年夏の陸将人事も、おそらくこの4名を中心に選抜が進められるのではないだろうか。

 

叶については先述のように、今後はまた裏方になってしまい表に出てこなくなるのは確実な幹部だ。

おそらく防衛装備庁のプロジェクト管理総括官や、もしくは補給系の要職といった辺りであろうか。決して表に出てくることはないが、自衛隊が精強であり続けるために、絶対に無くてはならない幹部である。

 

そんな叶の活躍には今後も注目を続けながら、そして応援していきたい。

 

※文中、自衛官・関係者各位の敬称略。

◆叶謙二(陸上自衛隊) 主要経歴

昭和
63年3月 陸上自衛隊入隊(第32期)

平成
11年1月 3等陸佐
14年7月 2等陸佐
19年1月 陸上幕僚監部装備部開発課 1等陸佐
19年8月 幹部学校付
20年8月 陸上幕僚監部装備部装備計画課補給管理班長
22年7月 第4特科群長
24年4月 研究本部主任研究開発官
25年8月 研究本部研究開発企画官
27年3月 陸上自衛隊補給統制本部装備計画部長
28年12月 幹部学校教育部長
30年3月 陸上自衛隊開発実験団長 陸将補

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