坂本知司(さかもと・ともじ)は昭和37年10月生まれ、北海道出身の陸上自衛官。
防衛大学校第29期の卒業で幹候66期、出身職種は判明しないものの、そのキャリアから考えて、恐らく普通科であると思われる。
令和元年8月23日(2019年8月23日) 陸上幕僚監部法務官・陸将補のポストを最後に退役することが決まった。
前職は第9師団副師団長兼青森駐屯地司令であった。
(画像提供:陸上自衛隊第9師団公式Webサイト)
(画像提供:防衛省東北防衛局公式Webサイト)
2019年8月23日付で、陸幕で法務官を務める坂本の勇退が発令された。
一般には馴染みがなく、また中央のポストであるがゆえに、指揮官たる陸将・陸将補のような離任式の画像がない、静かな退役となるだろう。
しかしだからこそ、その坂本の退役に際して、1人でも多くの国民に注目して欲しいと願っている。
坂本が最後に務めた法務官とは、自衛隊の活動に伴い発生した損害や損失に関する法的対応を担うポストだ。
究極の裏方と言っても良い補職だが、しかしだからこそこの機能がなければ、陸上自衛隊は国民からの理解も、隊員からの理解も得られないだろう。
組織を組織たらしめるために、要となる要職であると言って良い。
民間に損害を発生させるという不本意な事象が発生した時にも、その法的対応にあたることから、ある意味心苦しいポストでもある。
しかし、誰かがそれを担わなければならない。
そして坂本が、自衛官人生の最後の補職として、この要職を担った。
連隊長ポストでは、日露戦争で最初に203高地の一角を奪取し勇名を馳せた、歩兵第27聯隊の伝統を引き続く第27普通科連隊を預かった。
また「平時の最前線」とも言うべき地方協力本部でも指揮を執り、熊本地本長を任されている。
陸将補に昇った後は、東北健児の精鋭部隊である青森駐屯地を任され、第9師団副師団長に補された。
そんな数々の要職を歴任した坂本が、明日8月23日に正式に自衛隊を去る。
ぜひ、全く目立たない補職にある将官の退役だからこそ、1人でも多くの人に注目して欲しいと願っている。
そしてそれぞれが、坂本将補への敬意と感謝を心に想ってもらいたいと願っている。
坂本将補、本当に長い間お疲れさまでした、ありがとうございました。
将補の成し遂げた実績や仕事を、自衛隊をサポートする多くの国民が忘れることはないでしょう。
その誇りある自衛官人生に、心からの敬意と感謝を申し上げます。
新たに始まる坂本将補とご家族様の人生が、自衛官人生と同等か、それ以上に充実したものとなりますことを、心からお祈り申し上げています。
ありがとうございました。
(2019年8月22日 最終更新)
◆以下、2019年5月までに更新した記事
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2019年5月現在、陸上幕僚監部法務官を務める坂本だ。
おそらく、数ある陸上自衛隊の将官の中でも、これほど中々、表に出てくることが稀なポストは他にないのではないだろうか、という一般市民との接点が極めて少ない要職である。
法務官の仕事は、例えば自衛隊の活動に伴い発生した損害や損失に関する法的対応。
もしくは、自衛隊員個人に生じてしまった損害や事故などについて、その補償に関する法的対応を行う責任者というのが、任務の一例だ。
具体的には、陸上自衛隊饗庭野駐屯地では2018年11月。
第37普通科連隊が演習中に発射した迫撃砲弾が国道に着弾し、一般市民の車に損害を発生させてしまう出来事があった。
被害者が私(管理人)であれば、あるいは謝罪に来られた第3師団副師団長や幕僚長などに大喜びではしゃいでしまい、握手まで求めてしまうかもしれないが、さすがに一般市民はそうは行かないだろう。
いや、私も一般市民なのだが。
大ごとになり、当面の間、饗庭野演習場での実弾訓練が自粛される事態になってしまった。
例えばこのような場合の損失補償に関する法的対応も、法務官の仕事ということになるだろう。
なお、謝罪や原因究明といった役割は、一義的には現場単位の高級幹部が担うので法務官が出ていくことはない。
あくまでも、法的対応の責任者ということになる。
任務の性質上、なかなか明るい気持ちで取り組むことが難しいかも知れない仕事だが、それでも自衛隊が国民の理解を得て、あるいは隊員の健康と命、財産を保護するという意味においても極めて重要な仕事だ。
だからこそ、29期のベテランである坂本が、その重い任にあたっているということである。
ぜひ、自衛隊にはそんな仕事があることも知っておいて欲しい。
なお余談だが、上記の饗庭野を報じるニュースで、現場幹部が、地元住民に説明会を開き謝罪するシーンがテレビで放映されていた。
あーあ・・・着任したばかりなのに、伊藤優一郎(第40期)・37普通科連隊長、テレビの前で謝罪させられてるよ。。と思ったが、よく見ると違った。
一瞬のことだったので断言はできないが、マイクを持って立ち上がり、住民に謝罪をしていたのはおそらく第3戦車大隊長(当時)の水谷清隆(第43期)だったように記憶している。
「・・・なんで水谷1佐が??」
と思ったが、おそらく今津駐屯地司令だから、ということなのだろう。
責任者というポジションは、いつどんな形で「責任罰」が降りてくるかわからないものである。
いつだったか、自衛隊の元幹部の方の手記を拝見している時に、「責任罰は男の勲章たい!」と仰っていた記事が印象的だったが、まさにそれだ。
関係者各位には、しっかりと再発防止に取り組んで頂いた上で、「男の勲章」を握りしめ、次に進んで欲しい。
では、そんな要職を影から支える坂本とは、一体どんなキャリアを歩んできた幹部なのだろうか。
少し詳細に、その経歴を見ていきたい。
その坂本が陸上自衛隊に入隊したのは昭和60年3月。
1等陸佐に昇ったのが平成16年1月だったので、29期組1選抜(1番乗り)となるスピード出世だ。
陸将補に昇ったのは26年12月だったので、1佐として豊富な現場経験を積み上げた上で、堂々の将官昇任を果たしていることになる。
(画像提供:陸上自衛隊第9師団公式Webサイト あすなろ第159号より)
1佐以降の経歴で見てみると、連隊長ポストは第5旅団隷下、北海道の東に位置する第27普通科連隊長(釧路)で上番。
日露戦争の際、203高地の頂上の一角を最初に奪取したことで有名を馳せた、歩兵第27連隊の伝統を受け継ぐ精鋭部隊を率いて、部隊の歴史に名を残した。
また変わったところでは、「平時の最前線」とでも言うべき地方協力本部長も務め、平成21年12月から熊本でその重い責任を担っている。
また、将官昇任後の最初のポストも幹部学校副校長という、自由度が高く、また様々なことに取り組める責任あるポストを任されていることが印象的だ。
そしてその後職として第9師団副師団長兼青森駐屯地司令に着任し、陸上幕僚監部法務官に転じた。
陸幕での教育訓練計画課や人事計画課服務室長のポストと併せ、「人を扱う」領域に、特に強みを持つ最高幹部の一人であると言ってよいだろう。
では最後に、その坂本と同期である29期組の人事の動向について見ておきたい。
29期組の将官は、一部で既に勇退も始まっている年次であり、今まさに、我が国の平和と安全に最も重い責任を担っている世代だ。
そして2019年5月現在で、29期組で陸将に在るのは以下の最高幹部となっている。
上尾秀樹(第29期)・東北方面総監(2016年7月)
高田克樹(第29期)・東部方面総監(2016年7月)
本松敬史(第29期)・西部方面総監(2016年7月)
納富 中(第29期)・防衛大学校幹事(2016年7月)
柴田昭市(第29期)・防衛装備庁長官官房装備官(2017年3月)
山内大輔(第29期)・陸上自衛隊補給統制本部長兼ねて十条駐屯地司令(2017年3月)
清田安志(第29期)・統合幕僚学校長(2017年8月)
岩村公史(第29期)・第9師団長(2018年8月)
権藤三千蔵(第29期)・陸上自衛隊関東補給処長兼ねて霞ヶ浦駐屯地司令(2018年8月)
※肩書はいずれも2019年5月現在。( )は陸将昇任時期。
以上のような状況となっており、中でも29期の陸幕長候補は、本松、上尾、高田の3名に絞り込まれたと言って良いだろう。
あるいは山崎幸二(第27期)・第36代陸上幕僚長の後任が28期組である湯浅悟郎(第28期)から選ばれたために、29期組からは陸幕長が誕生しない可能性もあるが、こればかりは最後は運も左右する。
外野からは、楽しく見守りながら、重責を担う全ての幹部に最高のエールを送り続けたい。
坂本については、先述のようにすでに29期組は、将官にある最高幹部もどんどん、勇退が始まっている年次だ。
そう言った意味では、あるいは坂本も29年8月に着任した現在のポストが、最後の仕事になる可能性が低くないと言えるかも知れない。
こればかりは予想が難しいところだが、あるいは2019年夏の将官人事あたりで、長きに渡り務めてきた陸自に別れを告げ、制服を置くことになるのではないだろうか。
非常に寂しいことだが、どれほど優れた最高幹部でも、やがて制服を置き退役する時が来てしまう。
だからこそ、その最後になるかも知れないポストでの活躍をこそ、しっかりと注目して、応援していきたいと思う。
ぜひ、この目立たないポストにも、我が国の平和と安全を支え続けてきた最高幹部の活躍があることを、知ってもらえれば幸いだ。
※文中、自衛官および関係者各位の敬称略。
(画像提供:陸上自衛隊第9師団公式Webサイト あすなろ第160号より)
◆坂本知司(陸上自衛隊) 主要経歴
昭和
60年3月 陸上自衛隊入隊
平成
8年1月 3等陸佐
11年7月 2等陸佐
13年8月 陸上幕僚監部訓練課
16年1月 1等陸佐
16年3月 陸上幕僚監部教育訓練計画課
16年8月 第4師団第3部長
18年3月 第27普通科連隊長
19年7月 陸上幕僚監部人事計画課服務室長
21年12月 熊本地方協力本部長
24年7月 東部方面総監部防衛部長
26年12月 幹部学校副校長 陸将補
28年3月 第9師団副師団長兼青森駐屯地司令
29年8月 陸上幕僚監部法務官
令和
元年8月23日 陸上幕僚監部法務官のポストを最後に勇退
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